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激闘マンシュタイン軍集団/チットと攻撃と反撃と二択ラッシュ

 ゲームジャーナルr4号付録『激闘マンシュタイン軍集団』では、各ターンの頭にドイツ軍と赤軍それぞれが、そのターンに使う司令部チットを手持ちのなかから数枚ずつ選抜して、1つのカップに入れる。そして1枚ずつ引いていく。各司令部チットに対応して、司令部ユニットがマップ上に存在し、引かれた司令部がその周囲の指揮範囲の部隊ユニットを"活性化"して移動-戦闘を行わせる。こうしてターンが進む。

 したがって、一方の軍の司令部チットが連続して引かれると、戦線のあっちでもこっちでも攻勢が行われて突破や包囲が起きるが、そのターンの残りはもう一方の司令部チットばかりが引かれることになるわけで、反撃も起きる。

 カップには、全戦線の戦闘部隊をまんべんなく行動させるだけの司令部チットを入れられないので、敵の攻撃を受けないと読んだ部分の司令部は活性化させずに放っておくことになる。また逆に、ここぞという重点に複数の司令部をかためて、1ターン内に複数回の波状攻撃を行い大突破を狙ったりする。

 相手がカップにどの司令部チットを入れたかは、それが実際に引かれてくるまでわからない。ここに読み合いが生まれる。たとえば、序盤のドイツ軍は赤軍の攻勢から逃れる撤退戦を行うことになるが、司令部チットを省いた箇所に重点的波状攻撃を受けると手痛い包囲殲滅を被る。

 また、チットの引かれる順番によって、ターン頭の構想とは微妙に、時に大幅に違う展開が生じる。超気合の入った攻勢がすかされて、助攻だったはずの方面で突破孔が開けたり。そんな時は、事前計画に縛られながらも、いかに攻勢軸を転移するか、プレイヤーの手腕が問われる。

 また、赤軍は12枚の司令部チットを持つが、そのうち6枚はセットアップ時に捨てて、ゲーム中二度と触らない。つまりゲーム開始時にある程度の構想を立てる。各ターンごとの事前計画→その実施だけでなく、ゲーム開始時の事前計画→その実施という、二重のシステムになっている。

 このゲーム開始時の事前計画にも読み合いが生じる。たとえば、第4ターン頭に赤軍第3戦車軍が登場するが、このゲームの増援は鉄道移動でマップに入ってくる。そのため、スヴォボダ〜ロソッシ部分でドイツ軍が鉄道路線を保持していれば、第3戦車軍はスヴォボダ東方の、主戦線からはるか離れた交差点からてくてく道路移動してドネツ河の前線まで進まなければならなくなる。これに行動回数を数回要するので、第3戦車軍の攻撃力が遊んでしまう。したがってドイツ軍は、ゲーム開始時に赤軍が第3戦車軍の司令部チットを手持ちに入れたと読んだ場合、1〜3ターンに戦力をロソッシ方面に送ることで、第4ターンの災厄を予防できる。しかしもしかすると、赤軍は第3戦車軍のチットを捨てて第5打撃軍あたりを入れており、ロストフ方面を派手に突き崩してくるのかもしれない……読み合いだ。

 また、ゲーム開始時の事前計画も狂うので、そのレベルでの攻勢軸転移も生じる。史実でも、赤軍は当初スターリノを目指すきわめて大胆な計画で攻勢を開始したが、ドイツ軍の抵抗が激しかったため、戦線の薄いドニエプルペトロフスク方面に進撃方向を変更している。



 このチット引きによる読み合いと予測不能性とに組み合わさって、さらにゲームシステムを機能させているのが、赤軍の2つの攻勢目標である。

 赤軍にはドニエプルペトロフスク方面とロストフ方面の、2つの目標がある。前者にはスターリノ、ドニエプルペトロフスク、ザポロジェ、ハリコフの4都市があり、このうちの3つを占領(+ドイツ軍ユニット数枚殲滅)すれば、サドンデスで勝てる。後者では、スターリングラード前面からドイツ軍を押し戻し、ロストフの隘路を第5ターン末までに遮断できれば、第6ターン頭にマップ東端のカフカスボックスから撤退してくるドイツ第1装甲軍の全ユニットを補給切れの孤立状態にして全能力値半減→全滅させうる。

 この2つの目標のどちらもが決定的なので、ドイツ軍プレイヤーは、赤軍が司令部チットをどう配分しているかを推測して、序盤の少数貴重な増援戦力を2つの方面のどちらかに、あるいはまんべんなく、投入しなければならない。

 赤軍側から考えると、ドイツ軍の読みを外して大突破を成功させる見込みは十分高い。したがって、攻勢が失敗したときに戦線側面が非常に脆弱になるとしても、そのリスクを冒して、きわめて大胆な進撃を試みる価値がある。

 このため、赤軍のギャンブルと、(それを凌いだ場合には、)ドイツ軍の驚異的な反撃とが発生する。史実では、第1装甲軍の撤退が成功したのはぎりぎりであり、ザポロジェには赤軍はあと60kmまで迫っている(ゲーム的には、ザポロジェ・ドニエプルペトロフスク陥落の効果はサドンデス勝利になっているが、"実際"にはスターリノ以東のドン軍集団全体が補給切れ→孤立状態→全能力値半減→壊滅であっただろう)。ドイツ軍はこの2回の危機のどちらをとりこぼしても、破滅していたと思われる。だから、赤軍最高司令部が行った賭けには成算があったし、そしてそのプライズもまた大きかったのだ(参考:札幌歴史ゲーム友の会内Khar'kov1943の企図)。



 ウォーゲームでは、最初から最後まで双方の戦力が拮抗している戦いは、戦線が固定しやすく、楽しくなりづらい。かといって、最初から最後まで一方が押し込む戦いも、どうよ。つまり好まれるテーマとは、まず一方が攻撃し、それをしのいだもう一方が反撃する、という戦いである。モスクワやカフカスに手をかけながら及ばず、国力の差に敗れていく独ソ戦全体がまずそれであり、あるいは、国連軍が半島から追い落とされる寸前まで攻め立てられながら、仁川上陸作戦による劇的な大反撃で逆転した朝鮮戦争の最初の4ヶ月などが、プレイして楽しいテーマである。

 実際の戦争では、先制攻撃をかける側というのは楽勝のつもりで戦争をはじめるのであって、互角の「いい勝負」などするつもりはかけらもない。ドイツ軍指導部はソ連政権の頑強さを甘く見て、一度か二度の大勝利で降伏させられると踏んでいたし、北朝鮮アメリカ軍が半島情勢に不干渉だと判断していた。

 ところが、史実で彼らの知らなかった情報を、われわれ現在のSLGプレイヤーは持っているので、総戦力は互角だということを知ってしまっている。このため、放っておくとロシアンキャンペーンで引き分け狙いの1941年ドニエプル河東方鉄壁防御だのを行うプレイヤーが出てきかねない。それを防ぐ手立てとしては、特別ルールによってたとえば、金日成命令による強制移動や、特定VP未満サドンデスによる対処がある。あるいは、プレイヤーに戦史を学ばせ、それによって攻勢へのモチベーションが生まれることに期待する。

 ここで、この「攻撃と反撃」問題の綺麗な解決例のひとつが、激闘マンシュタイン軍集団である。つまり、互いの総戦力は分かってしまっているが、一つの攻勢軸においては、そのターンその地点にどれだけ司令部チットが投入されているかは不明である。言い換えると、赤軍プレイヤーが二択の攻撃をかけつづける。そのどこかでドイツ軍プレイヤーが防御に失敗すれば、ドイツ軍の反撃戦力自体が激減する。したがって赤軍は側面の防御をうちすてて、二択のラッシュをかけるのである。そしてこの2D格闘ゲーム的二択ラッシュをしのぎきったときが、ドイツ軍の大反撃の炸裂する番である。



 まとめ


1)チットによって事前計画が立つ。その実現までには1セグメント、1ターン、あるいはそれ以上のタイムラグがある。(チットを用いる手法は、ダミーマーカーなどを使うのとくらべて、予測不能性をカップの中に集約する効果が大きい。盤上の情報自体はノイズがなくとてもきれいになり、読み合いもダミーやカードやプロットより単純化される利点がある)

2)攻勢軸が二つ以上あり、攻撃側は二択や三択を次々に迫る。攻勢軸それぞれに戦略目標があり、達成時には防御側の反撃戦力を大幅に除去できる。

3)二択三択をかけてしのがれた場合手痛い反撃をくらうが、それでも成功時のプライズが大きいため、期待値は高い。



 以上の考えにしたがった場合、


4)激闘マンシュタイン軍集団では、増援配置後、司令部チットを選んでカップに入れるが、この処理順は逆にしたほうがよい。なぜなら、赤軍の増援配置には選択肢が少なく、一方、ドイツ軍にとって増援をロストフ方面に送るかドニエプルペトロフスク方面に送るかは、赤軍攻勢を耐えるうえで非常に重要である。そしてドイツ軍には司令部チットの選択の余地がやや少なく、すなわち読み合いの図式は、赤軍の司令部チット配分対ドイツ軍の増援配置配分というものになるからだ。

5)また、ドニエプルペトロフスク方面の戦略目標は、都市占領による点数サドンデスではなく、補給路遮断による軍集団の壊滅として処理したほうがよい。赤軍プレイヤーにはドン軍集団の首を断ち切る夢を(ドイツ軍プレイヤーには悪夢を)見させてやるべきだ。駆足は春の目覚めとは違って、成功しえた作戦なのだから、その成功可能性を再現できている以上、バルジゲームのように立案時の構想を史実での展開まで引き下げた勝利条件を用いる必要は薄い。(ドイツ側の都市への執着も再現しようとする必要はあるまい。結局のところ史実で、それらの執着は克服されたのだから)

6)そして、n択ラッシュの攻勢を、何回も攻守を入れ換えて行う、2D格闘ゲーム的なウォーゲームが企画可能であると考えられる。その場合、増援によって徐々に規模を大きくしていくとよさそうだ。

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