指輪世界の第五日記。基本的に全部ネタバレです。 Twitter 個人サイト

Dream or Die 〜俺R.O.Dのあらすじ〜

【TV1-2話】

 メディアミックス企画R.O.D。漫画小説OVATVアニメとあるが、最初にTV版(Read or Dream)の1-2話を見た。

 紙はえろい。

 動きも匂いも手触りも。

 曲線美もあってえろい。紙萌え。

 残念なのはまず、書籍への偏愛というモチーフを十分に描写できていないところ。ヘミングウェイが好き、と言葉でいうのは第一歩であって、そこからつながるコンビネーションの二手目三手目がなくては、打撃が視聴者の脳に届かない。たとえば、扉を開けたら本が雪崩れ出てくる演出が危うい。多少ならともかく乱暴に扱いすぎではないか、傷んでいないか幾らかは気にしろよお前ら感が強まる。一般的な「多方向に判り易いキャラ立てをしてどれか一人にひっかかれ」設計ならこれでもよさそうだが、書籍属性を企画の基盤に据えるのなら足りない。

 次に、紙使いという万能系のスタンド能力を3人も自陣営に揃えているのだから、敵もかなりの特殊能力を持っていなければ釣り合わないのに、本好きが昂じた嫉妬ストーカー小火器装備2人のみで役者不足。負けるわけない感があふれ、おとな気ない。紙使い能力はかなりのオーバーパワーなのだが、これは、強めに設定しないと紙片の動作画の官能性が追求できないからで、それがためにジョジョ第二部的な明示条件下での知恵比べ勝負(参考:ゲームとしての物語2.駒とアビリティ(能力)の設定)は放棄している。ゆえに世界観も真面目さを諦めてバカ格好良さ方向に寄せる必要があり、この観点からしても嫉妬ストーカーは適合しない。

 そして、第2話にして同居コメディがはじまり、唖然。本とも紙とも関係がないエピソードがどうでもよく流れてびびる。1話ですでに「探偵社」「ストーカー」と、スケール感を極小にすることに成功しているのに、部屋がないとか掃除してテレビ壊すとか、さらにミクロの世界に縮退していき、恐ろしい。

 この企画の要素としては、


1)紙の自在な変形アニメーションのえろさ

2)書籍属性:物体

3)書籍属性:知識

4)創作者としての作家

5)姉妹関係と他者との関係

6)スタンドバトル

という6つが挙げられよう。このうち前3者の間には、実は本来、しっかりした相関がなく、危うい。

 書籍に込められた知識をその価値とする描写を行うと(3)、書籍が本義ではなくなり、ビデオテープやHDDやDVD、ウェブでもよいということになってしまうし、では製本されて年を経た物体としての書籍をフェッチーに扱う(2)と、視聴者の共感を限定しすぎる。そして本を好きなやつがそのページをばりばり破いて戦闘に使うか? というと使わないから、実際作中ではコピー紙を使っており(1)、つまり書籍と紙使いとの関係は、真剣に考えた場合、微弱なものである。よって(1)-(3)は、きわどい、連想程度のつながりでもって導入されている。(4)とそれらとの相関はさらに微妙であり、(5)はまったく関係がなく、(6)は(1)にのみつながっている。

 そもそも作家(4)は、それ単体で非常なビッグテーマを帯びたキャラ属性であり、RODの企画ポテンシャルの成長人格位置に入れるには役不足であると思われる(やった!本来の語法で使えた!)。

 作家は直接製本された物体としての書籍をつくっているわけではなく、それよりも物語なり文章なりといった中間生成物をつくっているといったほうが近い。そしてその目指すところも、書籍を通じて何らかの抽象的概念を表現したりどうしたりこうしたり、というものであり、彼女の興味意図関心においては、物体としての書籍はいわば、素通りされてしまう。

 また作家の書いた作品に対する読者は顔のない不特定の極多数であり、作家は一人の熱狂的ファンや二人の粘着的アンチにそう簡単に動かされるわけにはいかない。作家は読者に対して、ある種の不感症を備える――雑に言って、将軍と兵卒とではドラマがつくれないようなものだ。兵卒は恐縮するほかなく、将軍は命令するほかない。制度・構造がドラマを吸収してしまう(第一日記2003年05月02日の武将と百姓との関係に類似)。

 つまり、創作意欲を見失った作家などというキャラには、物体としての紙の操作者たる三姉妹が動かせる作用点がなく、本読み/読者/小説ファンたる三姉妹が動かせる作用点もない。かみ合えずドラマを生めない。このあたりに、同居するのしないのという必然性の薄いエピソードでお茶が濁されている一因があろう。

 作家のかわりに司書、書店員、印刷所員あたりを置くのが、物体としての書籍に近く、適正であったと考えられる。制度・構造の面からみても尉官と兵卒とのドラマに相当し、なんとかなる。

 良いところとしては、企画の主眼である紙の変形のアニメーションがとても快く実現されている点と、次女のボサ頭のっぽが夜の読書のための巣を作る演出に非常に共感できる点がある。



【OVA1話】

 次にOVA版(Read or Die)の1話を見た。

 これは非常に萌え燃えである。

 主役キャラ読子の寝癖・黒縁眼鏡・洒落気の薄い服装が書籍属性を直撃するし、起床時の手・髪のかきあげ・倒れ込み、また靴を履いて向き直る芝居での体重移動に、良い作画がみられる。そして本で埋まった床の空地を抜き差し足する芝居に、書籍属性の本懐と作画の本懐とが結ばれ実り、理想のカットとなっている。

 どこかに移動する前にまず本を確保する(移動中の待ち時間に読むために)、その本に挟まれているメモには気付くが弁当と鍵とには気づかない、交差点で本を読んでいて気がつくとまわりに誰もいなくなっている、などに光る本読み演出がみられる。白眉はミス・ディープとの初対面シーンで、同じ本に手が伸びるというのは、古書店でピンポイントに同好のシーラカンスと出会うという本読みの夢想妄想シチュエーションであり(僕も死ぬ前にぜひ一度体験したいができまい)、さらにその本を自分が手に入れる、すなわち勝つ、というのは絶世の喜びといえよう。そしてその喜びが相手であるミス・ディープに通じていない、という点に至って、もはや萌え死にするほかない。

 自分の持っている本の価値を他者が認め、ばかりか切望するという幸福は、『不滅の恋』を取り戻して紙テープを切る読子の表情にも窺えてうらやましい。この本は企画意図に沿って正しく設定されたマクガフィンといえる。神保町も舞台として多くの本読みをくすぐるし、敵陣営の第一目標が米国議会図書館で、そのついでにアメリカ大統領に喧嘩を売っておくというプロットも、冒頭のわずか数十秒間で話を大きくすることに成功しており、優れている。

 敵として過去の偉人を起用したのも良い。紙使い能力および物体浸透能力という、真面目に・本気に・マンチキンに運用すると世界を壊してしまうスーパーパワーを導入する以上、敵にもそれに匹敵する強力かつ単能の専門バカが必要で、同時に世界観をバカ格好良さ方向に寄せて、シビア度(世知辛さ)をかなりゆるめの間抜けレベルで揃えるべきである。その観点からいって、滑空に滑空を重ねて墜落大往生したオットー・リリエンタールのバカ格好良さ、および間抜けさは、よく適合している。平賀源内、ファーブルも同様に間抜け感を備えた人生を送っている。クローン技術、の一言で記憶装備込みの偉人が登場するバカ展開も、これらに揃っている。

 また書籍は、過去の偉人たちの功績の蓄積という側面があり、それを軸として読子と偉人たちがかみ合う。読子は偉人たちのことを彼らの登場以前からよく知っており、一方の偉人たちにとっても、書籍は大切なものであった(ただし、実際の演出では、読子が源内やリリエンタールのことをよく知らないという描写がなされており、ミスっている)。

 台詞回しはそこかしこで不自然だが、アバンタイトルの「偉人だ。」の決まりっぷりは素晴らしい(微妙に異人とのダブルミーニングになっており、黒船に乗せてやりたくなる)。「弾丸で風は殺せない!」も良い。つまりバカハッタリ系の台詞に美点がある。

 トランクを載せたキャリアを使って、その重さおよび読子自身の重さ・重心を描き芝居させているのも萌える(重さ萌え)。具体的には、キャリアを引っ張った前傾での歩行、ワーゲンからバスにキャリアを引張り上げ放り乗せ、次いで自身もよじ登る芝居である。

 手をスカらせて握手せず名乗らない→手を掴んで引き上げ本名を教える というミス・ディープとの仲良しオチでまとめるのも、手と手を描いて三十年、アニメの伝統であり様式が美しい。



【OVA2話】

 そしてOVA版の2話を見た。

 残念。

 インドには本読みへの訴求力はない。環境の書籍属性が弱く、読子の書籍属性描写もない。敵キャラ玄奘は本来は強烈な書籍属性持ちであり、読子とかなりの好角度でぶつかれるキャラな筈だが、しかし、史実版は文系の根気無限大爺さんといったところで戦闘をする人格ではない。西遊記版は戦闘力の無さが売りのひょろい兄ちゃんなのでこれも向かない。つまり演出に工夫が要ると思われる。

 そして実際のRODでは、好戦短気の色白兄ちゃん如意棒火吹き付きという、逆に逆にの組み合わせで造形されており、見づらい。この悪造形も、絵面が格好良ければバカハッタリ的に裏返って「気合の入った冗談」として楽しくなるのだが、カット割と動画作画の質が暴落したことで支えられなくなっており、その落差にびびる。1話の自由の女神の松明に巻きつけてドカン、という決着にみられたレイアウトの説得力が払底し、空を飛び川を割りというアクションのひとつひとつが安くなって見るに厳しい。



【OVA3話】

 そしてOVA版の3話を見た。

 残念。

 海には本読みへの訴求力はない。環境の書籍属性が弱く、読子の書籍属性描写もない。敵キャラは源内とファーブルに加えて一休、ワット、ベートーベン。話を見渡して書籍属性がどこにもなく、企画意図が失われていると思える。『不滅の恋』を軸とした争奪の構図がなくなり、敵陣営の攻撃がすべて手当たり次第の無戦略さで繰り出されるようになり、狂犬気味で安い。また、死のとんち・蒸気レーザー・自殺交響曲・プラズマブレード・脱皮再生のうち、アニメーションとして快い絵面になるのは後二者のみであろう。

 ロケットにも本読みへの訴求力がなく嬉しくない。ロケット属性の視聴者というのは他にちゃんといて、しかもロケット属性のアニメが他にちゃんとあるので、わざわざそのニッチへ行く展開が怪しい。

 管制室というのは訓練された人間の効率的な情報処理の快さを描くべき場所であり、規格外品である読子を未知の環境偉人要塞で管制するには非常の有能さが求められる。しかし大英図書館のスタッフにその有能さがみられず惜しい。

 偉人たちのすごい計画との対決を本筋に持ってくる番のはずなのだが、一休の動機告白は「やれる能力があるからやってみたい」の一言で終わり、激弱。そのかわりに1話で消化したはずのミス・ディープとの仲良しネタを2話から3話までひっぱり、さらに逆転の一打にまでひっぱり、ついには全体のオチにまでひっぱっている。ただし根本的問題はやはり、絵面に緊張感が少なく、バカな話/バカな絵面→バカ格好良い話/バカ格好良い絵面 変換が行き渡っていない点にある。

 源内・ファーブルの戦闘シーンの動画に素敵さがあったが、しかし読子自身が動いてしまい、「本体の所作は少なく、紙片が鮮やかに舞う」という図式が消えて無念。ミス・ディープ2人の戦いは、能力の範囲が明確かつ同キャラなためか、展開が掌握されていて、駆け引きができており、快い。



【〜俺Read or Dieのあらすじ〜】

 第2話。ドイツですよ読子さん。

 偉人の出現に動揺し対策を練る各国政府。しかしその影に怪しい影が。実は蘇ったグーテンベルクが世界中の政府印刷所を操り、公文書をすりかえて偽の命令を混ぜていたのだ。いつのまにか急速に悪化した欧州情勢は戦争勃発寸前。フランクフルトに飛ぶ読子たち。機上で恋と奇跡と統計論について雑談しておく。「そんなこと、薬缶が凍ったってありえないわ」

 着ドイツ。偽の指令が乱れ飛び、大英図書館エージェントはうさんくさい目でみられ、敵のスパイ扱いされたり、ジョーカーからの指令が偽物ではないかとか、疑心暗鬼なエピソードを交えつつ、巨大印刷所を舞台にその構造の紹介(社会見学は楽し)した後グーテンベルクと対決。彼は印刷所内では読子をもしのぐ紙片操作力(機械制御力)があって手強いが倒す。次にクラウゼヴィッツの指揮する戦車中隊に囲まれるが倒す。捨て台詞「奢るがいい、この勝利は戦術的勝利に過ぎぬ…」

 大英図書館は全世界規模でエージェントを動員し、その後方支援組織は繁忙を極めていた。装備の発送業務にてんてこまいのウェンディ。読子の要求した娯楽本をでかい箱に詰めて、その次は地下室の棚の奥にしまいこまれていた奇妙な黒い小箱。それを要求する書類には、ジェイムズ・クラークと署名されていた。



 第3話。エジプトですよ読子さん。

黒い小箱はその名もマクスウェルの箱。小さな窓があいていて、特定の物体を入れて使うことで、それと対になる事物のエントロピーを逆転させ復元できる無茶気味な代物だ。冒頭、再生偉人J・C・マクスウェルはこれに『不滅の恋』を納めて用い、アレキサンドリア図書館を復元する(『不滅の恋』はクレオパトラのメロドラマだったことにしよう)。スペクタクルな絵面。それをモニターで見る面々。マクスウェルを見て顔色を変えるミス・ディープ。

 アレキサンドリア図書館の奥にはアルキメデスの梃子があり、地球(の地殻)をひっくりかえせるこれまた物騒な代物。偉人連盟のラスボスにジョージ・オーウェルをもってきて(作家は書籍属性世界において元帥級の強キャラであり、主人公陣営の成長ドラマポジションには勿体ない)ヒステリックに叫ばせる。

(梃子を指先で弾く。大地震と大津波に襲われる任意の国。ウェンディがそれをうろたえつつ報告)

オーウェル「わはははは。見たかね<梃子>の力を。わたしは人類に絶望したのだ。衆愚は堕落し世界を悪化させていく。理想社会は偉人で構成されるよりほかない。生ける衆愚を葬り、死せる偉人を蘇らせ、死者の王国を築く。人類は偉人として永遠に存続する。」

 図書館に突入する読子たち。大英図書館に間取りの資料があり、ジョーカーとスタッフがそれでもって無線指示する。ファーブル先生がスカラベを使って巨大球体トラップを仕掛けていたり。アクションシーンを済ませたら、オーウェルと対面。


読子「知識は前に進むためにある。いくら偉大であろうが、それ以上何かが付け加えられることのない停滞した知識など知識ではない。前人の仕事を引き継ぎその先に一頁を加えていく、本とはそのためにこそあるのだ。つまるところ新刊が出なくては困る。」

オーウェルにもペン/インク(本来はタイプライター?)を使った戦闘能力があり、読子と一瞬のアクションをかわすが、読子の決め台詞に敗れる。箱は壊れ、図書館再崩壊。一同は脱出し世界は救われるが、ミス・ディープが御臨終。実は彼女はマクスウェルの箱によって存在していたのだった。楽しかったわとか言い残して、図書館とともに消える。

 でも生きてて、後日談で再会。レギュラー陣でお茶会してて、ジョーカーが温かい紅茶を頼んだのに、口をつけたらキンキンに冷えてるやつで、びっくりするとそれを注いだのがミス・ディープ。ポットを置いて「奇跡って、たまには起こるみたいね」

 読子が抱きついておわり。

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