指輪世界の第五日記。基本的に全部ネタバレです。 Twitter 個人サイト

ビッグフィッシュ、トロイ、ハウルの動く城(俺)

 ビッグフィッシュ。

 親父の消滅を予告し、本人の自己肯定は済んでて、息子が過去発見して浄化の最後の一歩を抱いて歩み川へ「ごおぉぉぉぉぉぉぉる」うわあ。

 翼人前世篇(※Air)など親父一人分の過去の敵ではなかった。監督の、そしてすべての嘘吐きたちのテーゼが爆発、くそ泣ける。俺ビッグフィッシュだと、最後「親父は魚に呑まれた。そりゃびっくりするほど大きな魚で…」と暖炉の前で子供に語って世代交代でとどめだが、その場合葬式同窓会/種明かしが入らなくなるのでむずい。



 トロイと書いてTROY。

 ロードオブザリングの後半二本に足りなかった戦争のエンターテインメント性を完全に補足。いろいろ芸を見せる。

 「不用意な投げ槍を避けて出の早い6629Pで瞬殺」

 「突撃→陣形→散開」

 「騎兵です」「挑発して地上白兵戦に引き込め」

 「押し過ぎて弓兵の射程に入るな!」

 「敵の士気は落ちています。いけます」「いやむしろ攻めないほうが勝てます」

 「ファイヤーボール!」

 「ア・キ・レス!ア・キ・レス!」

 「ハズレだ――!!」「……今日はこれまでにしよう」

 「最初期の騎兵損失により偵察兵を単体運用せざるをえず」

 「ヘタレだった僕が最強キャラを倒せました」

 指輪物語の第三作ROTKが、第二作TTT同様の篭城戦→援軍来て逆転、に留まったのに対して、攻城兵器を映しもせず。一騎打ちで百芸を披露。個人戦がシーソーでなく、いずれもキャラ差がついていて、そのキャラ差を徐々に、さまざまな芸を通じて顕現していって終わる。槍/盾/剣がそれぞれ適切に重いのが良くて、舞いになりつつ、打撃での重心の崩し合いおよび体力ゲージの奪い合い、というかだんだん天秤が一方に倒れていくのだが、いい打撃を当てられたら不利になっていくのだ、というのが地味ながら非常にしっかりと表現されており、文脈の残りづらい日本刀やチャイナな剣戟と見比べて楽しい。開始時は対戦二者のどっちが勝つんだろう、どうなるんだろう、と思うが、一手一手を重ねるごとに、やがて最後に完全に実力差がわかり、なぜ一方が勝てないのか、そして次やっても勝てないであろうことを納得する。つまり、正フィードバックしたほうが細部の印象を損なわないこともあり、時には派手な逆転刺激を除き、比較的地味な独自のフィーチャーを並べていくのが有効、と。

 戦闘、戦術、戦略から政治まであるし、士気もあるし(当然)欺瞞もあるし、補給がないのが惜しいが、不真面目な戦争映画としてはほぼ全てを使ってある。あとは船団を発見した兵士の殺し方をナウシカ漫画版に脳内変換し、城門の見張りにも「あと一歩で鐘に手が届かず」演出を俺追加して完璧。



 トロイでエンターテインメント戦争分は補充したので、もうわれわれは、トラウマ戦争分を待ち受けるのみです。

 そう、7月公開予定の宮崎駿ハウルの動く城』です。

 これはお客さん。傑作になります。間違いありません。考えてもご覧なさい。宮崎駿の多砲塔戦車映画ですよ。雑想ノートですよ。泥の虎ですよ。

 それはもう阿鼻叫喚の地獄絵図になること蛍のごとし。

 わたくしあんな予告のお菓子の家トーンなぞ信じません。腕とび腸あふれる戦争映画こそが今、このタイミングで、駿先生の体力あるうちに。

 パトレイバー2公開直後の押井守に「柘植はあそこで撃たせるべきだった」と仰って*tugから11年。駿先生の描く軍人はどんなかしら。クシャナかしら。クシャナにとっつかまって騎兵突撃につきあわされて攻城砲の水平発射をくらって壮烈に死ぬ将軍(ラブ)かしら。ナウシカの盾になる重装騎兵かしら。土鬼の年寄りを殴り倒すトルメキアの敗残兵かしら。土鬼側は国民皆兵と党組織だから職業意識のある軍人はいないんだけど、今回はおめめぱっちりおひげのおしゃれなイスラムゲリラとか出てくるかな、とか、わくわくです。誰かヒロイックに死にますかね?

 トラウマ戦争分の系譜というのがありまして。駿先生御自身が戦火をくぐったわけじゃあござんせんが、焼夷弾放射能浴びてひどい目見た世代というのがいるわけです。で、そういう衆らは作ったね、トラウマ小説を、トラウマ映画を、トラウマ漫画を。餓鬼どもに自分の嫌戦の怨念を移植して、二度と戦争なんぞ行かせたらんわ、溶けたガラス見ただけで吐き気を催すようにしてやる、とね。

 そういう巨大な情熱が、もう連中だいたい死んじゃってるんだけどしかし受け継がれていて、火垂るの墓とかを作らせるわけです。あと、はだしのゲンとかね。7月4日に生まれて*fojとかね。パワプロクンポケット2とかね。あんなクロスオブアイアンやプライベートライアンブラックホークダウンみたいな、戦場というエンターテインメント向きの場面だけ見てちゃいけませんよ。頭部銃創で即死できるようなきれいなもんじゃない。お前らに飢えの中で妹から食物を奪って衰弱死させた俺の気持ちがわかるか。焼け爛れた皮膚がはがれ垂れ下がったまま水を求めてさまよう私の身になれるか。下半身不随で帰国して実家で邪魔者扱いされるベトナムの英雄の気持ちがわかるか。楽園のごとき南洋の島で赤痢で虫けらのように死んでいく兵士達の気持ちがわかるか。インパールの山奥で敵の伝単チラシを食べ、互いの背中の汗を舐めあう男達の心の中がわかるか。わかるかっての。わからないしわかりたくもないですが、そのおじさんおばさんらを怖れなけりゃいけない。連中の言葉を、体験を怖れるべきだ。

 努力友情勝利を教えこむように、何を恐れるべきかもまた、連中によって叩き込まれる。

 あとまあ六角マス広げてチット並べてサイコロを振り、「一個軍を失うぐらいなら一都市を失ったほうがましだ」な(気楽な)将軍気分を味わったり、PSのパッド握ってティーガーの砲口が真円になった瞬間の絶望を味わったりすると多角的ですが時間は無限にはない。

 ここにリンクを供えておく。



宮崎駿の雑想ノートISBN:4499226775 泥まみれの虎ISBN:4499227909 風の谷のナウシカ漫画版ISBN:4197735812

はだしのゲンISBN:4811304004

ビルマ・アッサムの死闘/無名戦士の記録シリーズISBN:4871191206

戦争のはらわた(Cross of Iron) 専門サイトのレビュー

パワプロクンポケット2 リンクXさんの演説

浜松ボードゲーム同好会4-5月活動報告

パンツァーフロントASIN:B00005QHN2

指輪世界 鈍色の攻防ネタ



[tug] 押井・宮崎パト2後対談

押井守全仕事ISBN:4873765609

すべての映画はアニメになるISBN:4198618283



[foj] 7月4日に生まれての思い出

 あれはもう8年前になりますか、夏の暑い日でございました。われわれはインディペンデンスデイのバカエンターテインメント性におおいに嬉しくなり、恒星間飛行してきてビームで大都市を破壊してノーパソでクラッキングされる円盤と、洞穴に潜む自衛隊司令部に膝を砕かれていました。ここらでバランスを取ろうとの謎思考により借りてきた本作品は演出に優れており、なかでも凱旋パレードまわりは白眉。主人公の少年時代、父の肩車で見に行ったパレードの爆竹が鳴る度に、行進するおじさんらがびくりと身を震わせ、いぶかしく思う主人公。それが成長従軍負傷帰還し、今度は自分がパレードの中で、爆竹の音に銃声を感じ身を竦ませる。ちょうかっこよく、吐き気がして、泣けます。

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