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友と敵のモザイク

 ここしばらく『ブラザー・エネミー』ISBN:4839601321さ面白かった。

 アメリカはベトナム戦争をたたかう根拠にドミノ理論を置いた。これは、共産主義国の増加を<傍点>どこかで食い止めなければどこまでも革命と政府転覆がつづいてやまない、という考えだった。ところが1975年にベトナム戦争北ベトナムの勝利に終わり、アメリカが撤退したその砂埃おさまるやいなや、カンボジアクメール・ルージュベトナム領の村々を襲撃・虐殺するわ、中国は南沙諸島その他で圧力をかけるわ、共産国同志はばりばりに緊張しだした。というのも、クメール・ルージュがクーデターによって倒したシアヌーク政権は国内では共産主義者を弾圧してたくせに、ベトナム戦争では北が勝つとみてベトコンに中国からの補給路をとおして支援するというややこしいことをしていたり、中国は自国の南側にラオスベトナムカンボジアが合同する強力な勢力ができてほしくないと思っていたりしたためで、中国はクメール・ルージュに援助を与えてベトナムへ南北から圧力をかけた。すると中国と険悪になっていたソ連が、東南アジアでの軍事港湾施設獲得を期待してベトナムへ支援を提供しようとして… アメリカはソ連と対抗するために中国と協調する路線を選ぼうとするが、国務省ベトナムとの国交正常化も同時に進めようとしていて、中国優先派との政策争いが… でもって1978年、華僑など中国系住民をボートピープルで蹴り出したベトナムは、亡命者によるクメール人ゲリラ組織などを準備したうえでカンボジアへ侵攻し、これを電撃的に占領。対して中国は1979年、ベトナム国境を力攻、地勢不案内な山岳地帯でおまけの地下壕が縦横に掘ってあるところへぶつかってったもんで大損害をくらいつつ、北部の数都市を占領、反撃を受ける前にこれらを爆破して撤退、何がしたかったんだかな結果を得る。いっぽうカンボジア占領によってベトナムと国境を接することになったタイはそれを脅威として国内の残存クメール・ルージュ勢力を保護、越境ゲリラ活動を支援しはじめ、またASEANは…

 なにしろややこしい。どの国にせよ国なら国で、内部に最低二勢力おり、たとえば中国なら急進派の四人組とそれを覆した連中とで対越・対柬のニュアンスが違って政策がずれるし、考え方も、相手国が脅威だから強くならないように抑え込むために喧嘩を売ろうとか、脅威だからご機嫌をそこねないように譲歩援助しようとか、わけがわかりにくい。

 この錯綜っぷりは金庸武侠小説級で、お勧めですよ、F橋さん。都市から人を除去して急進革命を目指すポル・ポトあたりを筆頭に、指導者がそれぞれ無茶残虐なりにどこか一本真面目で、自分の国家の運命の1/3ぐらいは自分自身の運命で決まると思ってる。自分の役職の任期がすぎたら引退して、国自体は存続していくと思ってるようなのんきな連中じゃない。こいつらが江湖英雄。アメリカ(朝廷)から正規軍が送られていた間は団結反抗し撃退するが、いったんその軍が引くと内輪揉めが再開するという筋書き。米ソ中いずれにも援助がほしいが依存はすまいと独立護持の綱渡りを試みるベトナムがいかにも<傍点>主人公っぽい。そしてまたこれがうまくいかない。ややこしく巡り合せ悪く展開する。それでかつての師匠が怒って殴ってくるという例の燃える展開だ。金庸よろしく人死にも景気よく達人がばたばた死ぬ。萌えキャラはモニカ妃。金日成から贈られた友情のリンゴにシアヌークが涙するところが婦女子向きの場面かしらん。

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