組織数多くて漫画どこかに登る
本日は漫画に登場する組織の数について一席。
漫画版パトレイバーの魅力のひとつが、その中で描かれる組織の数です。
特車二課、同第一小隊、同第二小隊、同整備班。警視庁捜査課。シャフトエンタープライズジャパン企画七課、同査察部、同土浦研究所。シャフトセキュリティシステム。シャフトコリア、シャフトチャイナ、極東マネージャー。篠原重工。四菱。東都生物医学研究所。米軍。自衛隊。地球防衛軍。極端会。パレット。ニューヨーク市警。長野県警。海上保安庁。写真週刊誌(名前失念)。TTV。
これらの組織が互いの力を使ったり使われたり、牽制したり追跡したり、ついたりはなれたりしているのを思い浮かべてみましょう。楽しくてたまりませんね? うっとりです。
マイカップリングは、メジャーどころながら企画七課×シャフトセキュリティシステム。最初は力自慢のSSSが乱暴に迫るのですが、企画七課の智謀に逆転されていいようにされてしまう… 本編の最後を締めるのもこのカップルの愛憎です。
本筋はもちろん企画七課×第二小隊なのですが、七課のいくたびものアタックを第二小隊が振りまくるのでちょっと辛い。七課がかわいそう。でも七課に家出される親、シャフトジャパン本社も泣けるからおあいこです。
冗談を続けますと、過日アフタヌーンにて非常に残念ながら終了した砲神エグザクソンも、組織数に期待の持てる漫画でした。ファルディアン側は、地球占領軍内にシェスカ中将とその直轄部隊と軌道ベース委員会、ゲートをへだてて本星、そこから派遣艦隊というふうに、素敵な組織配分になっていてグッド。地球側も、自衛隊の残存一個小隊、ちらりと米軍の原子力潜水艦、右派の街宣家等がおり、ファルディアン指揮下に入った地球軍戦力の描写もなかなか。それから加農家と、日野家。
この組織数、連載が続行すればさらに伸びただろうに、無念なことです。被占領下の地球軍のトップの将官とか、ファルディアン指揮下の地球人の治安情報組織あたりは、けっこう重要な役回りができたのではないでしょうか。情報戦では重要だし、すぐさまファルディアンひとすじについていくとも思えないから、分派がいたりとか二重スパイ等。あと地球の官僚ですね。地球を植民地化するうえでは、どこかでファルディアンの組織と地球人とをつなぐ緩衝組織が必要で、ある見方からすれば、そういう組織を素早く成立させられるか、それを途中で阻止し、機能できないようにしてしまうかの、競争の勝負ともいえる。だからそうした組織を担うであろう地球人の官僚たちが何を見てどう動いていくか。徹底抗戦は惨事だと思いつつもプライドもあって…揺れる乙女心が千々の組織に分かれて警察と土建屋の関係とか言い出すと楽しげ。
ロボット並びでFSSことファイブスター物語に話をとばすと、メイユ・スカ様萌えですね。ここでキャラクター萌えになってしまうのが少し悔しいところですが、スカ様はFSSの中でも傑出して、組織をカメラフレームの中に入れてくれる人でした。スカ様を映すカメラのフレームには、組織が入るのです。上司が悪の老魔道師ディ・バロー、横に傭兵集団パイパー大隊、脇に参謀と伝令、下にシーブル軍一個師団、および騎士ブラフォード。その対面に映るのがAKD親衛軍団第一師団。
スカ様の持つ組織フレーミング能力は、彼の以下のようなキャラ属性から生まれています。
・戦闘能力が弱い
・人(※ファティマ含まず!)を使い、人に使われる
・組織内で階級が偉い
・けど立ち位置が現場
・個人に対する態度が上に弱く下に強い=フランクでない
・「今度失敗しおったら、奴め…」は任務の失敗を口実にしようというもの、「大目に見てやれ! 女の写真一枚がどれほど士気を助けるか…」は兵隊の士気に留意したものと、嫌悪も温情もありそれらどちらをも、職権と職責を通じて実現しようとする
これから登場するキャラで、「泉に落ちて善玉側に来た『良いスカ』」とか出ませんかね。善玉側だと、王様がへつらう必要のないフランクガイだから難しいですね。
こうして考えてきてわかるように、物語というのは最終的に組織が描けていないと駄目ですね。いくら絵柄が精密で、アクションシーンが爽快で、キャラクターが魅力的で、味のある人物像が描けていても、それが組織につながっていないと意味がありません。物語を通じて組織を深く追求すること。それがいちばん大切なことだと思います。
やや真面目に話すと、組織数が増えるということは、各組織の中のポスト、役職が増えるということであり、その役職が果たすべきロール、role、役割、動機責任義務権利が、各人物の上に味付けされることになるわけです。組織レイヤーが重なると言ってもいいし、ロールプレイが生じると言うのもいいでしょう(参考:馬場秀和マンション理事会RPG)。
だから組織数が増えるということは物語の因果連鎖の経路が増えるということであり、それによってドミノがややこしく細やかな倒れ方をしはじめて、楽しくなる。
「機動警察パトレイバー」コミックス版 時系列表
漫画批評-徹底(機動警察パトレイバー漫画版)
FSS小事典バッハトマ(メイユ・スカ) バッハトマ魔法帝国(スカ)
あなたのマンガ夜話/26弾/ファイブスター物語(掲示板ログ 200番) あなたのマンガ夜話/26弾/ファイブスター物語(同 430番)
"エグザクソン シェスカ"でググって人物紹介ページがあたりません。不遇です。
SFオンライン97年12月02日 水玉螢之丞インタビュー「SFまんが道」第二回「園田健一」篇
[ml] ミラージュ騎士団左翼
王様がフランクで強く、その下にのびのびと、おさえつけられずに並ぶ部下、という図式と書きましたが、正確に書くとシーブル軍vsAKD親衛第一師団の話のちょうど背景で、その図式からずれた愉快なエピソードが走っています。ミラージュ騎士団左翼の叛乱話がそれで、FSS全設定中もっともフランクかつもっとも強力な王様である皇帝アマテラスが能力を失っている間に、王城に封じられていた不正規精鋭部隊が反逆を起こして、正規騎士団を虐殺する。しかし皇后ラキシスがこれまた激強の実力を示してこれを鎮める。
着目点は、反逆といっても、あくまで実力で自分らに劣る正規騎士団をいたぶるものであって、「上司の座を狙う」ものではないということ。皇帝アマテラスの超能力は生来のものであって、その権力は組織の力学が形成したものではなく、つまり彼を失脚させ/排除したとしても自分達が奪い座り込める椅子として残りはしない。
こう考えてみると、ときおりSF/伝奇方面の話でみかける、殺した相手の力を奪い吸収できる、という設定って、リアリズムとみなせますね。あいつらって、部下だったのか?