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俺の屍を越えてゆけ/家督を執ってみないかね

「こんにちは、先生」

「彰宏君。こんばんは。何をしているの」

俺の屍を越えてゆけというプレイステーションのゲームの解説作りです。」

「名前は知ってる。俺屍(おれしか)、というやつね。RPGだっけ?」

「はい。2年弱で急激に成長・死亡する呪いをかけられた一族が、神様と婚姻しながらラスボスを倒しに行くゲームです。時間単位がダンジョンへの出撃1回1ヶ月、パーティ人数上限4人。稼いだ経験値と同額の奉納点という消費資源がもらえて、それで強い神様を娶(めと)っていく」

「やたら分厚いマニュアルだな……ふむふむ。神を娶って子供を作ることを交神(こうしん)という。1回の出撃で一定回数の戦闘しかできない…… それでその図は? 子供の産ませ方、家系の伸ばし方かな」

「そうです。左側が僕の好きな直系主義の家系、右側が一般的な、並列主義の家系です。太字が、ある1キャラクターの個体、およびその戦闘能力を表す。棒矢印の脇の数字は、娶る神様(交神相手)の能力値、兼、必要奉納点。家系の右脇に並んでいる数字は、左のほうがその世代の交神の奉納点合計、右側がその世代のキャラクターの戦闘能力合計です。」


直系主義的家系図 並列主義的家系図

「ふむ。直系主義というのは、高額親神だけを娶る家系1つと、低額親神だけを娶る家系たとえば3つとで、4本の線を伸ばしていく、っていうわけじゃないのね。」

「ええ、そこは間違えないでください。伸びていく線が1本だけなのが直系主義です。毎世代、繁殖個体が複数回交神して何本か枝分かれをするけれど、それらの枝はある1本を除いてそれ以上伸びない傍系になります。かたや並列主義では、初期の数世代で4本なり5本なりに広がった枝が、それから後は1キャラクターが1交神して1キャラクターを生み、それぞれずっと何世代も伸びていきます。この違いが大事です。そして直系主義では、その『真に伸びる線』を、毎回高額親神で伸ばして、他は手抜きをするということです。」

「それって強いの?」

「先生、これから貯金をするんだ、みたいな気持ちで考えてみてください。一世代ごとに一定金額の奉納点をもらって、この予算で4つの口座に入金しろ、と言われるわけです。それで変なルールがあって、どの口座も、その『親の口座』+今回の入金、を半掛けした金額になる。そしたら、あるひとつの高額な『親』をつくって、それを何度も使ったほうが得でしょう。そしてそれを何世代も繰り返していけば、大きな差になるわけです。」

「あー。なんかすごい妙な預金機関だが…わからないではないな。」

「その2枚の図でいうと、直系主義ではそういう強い親を何度も使うので、世代毎の戦力合計が4、6、11、16、21、、、と増えていますが、並列主義は律儀なぶん戦力合計は4、6、8、10、12、、、になります。この図では神様の必要奉納点の値をそのまま能力の値として1つの数字にしちゃってますけど、簡易な理屈としてはそうです。」

「神様の値段がそのまま実力だってことにしてるのね。そのへんは怪しい」

「とはいえその怪しさは、大した問題にはなりません。それともうひとつ。この図ではどちらの主義でも毎世代奉納点が8、10、12、、、と手に入るということにしていて、たとえば第3世代はどちらの主義でも14点の奉納点を稼ぐとしています。しかしですね第3世代の子供たちの戦闘能力をくらべてみると、直系主義が5、2、2、2なのに対して、並列主義は2、2、2、2のラインナップですから、実際にはこのふたつは同じ奉納点を稼ぐわけじゃなくて、直系主義のほうが稼ぐことになるわけです。これが正フィードバックを起こしますから、さらに直系主義のほうが優位になります。また、もうひとつ、在宅キャラクターのデッドタイムというものもあります。直系主義では、出撃可能戦力が4人を割り込むタイミングに合わせて次の子供をつくっていくという単純なコントロールが可能で、現役3〜4人をキープできます。しかし並列主義ではそこに各家系の存続という要素が加わるので、人数が5人や6人になりやすく、手持ちの仕事なしに家で待っているキャラクターがそこそこ生じます。この人月のロスが少しずつ効きます。強さについて言えば、以上3つですね。」

「なるほど、しかしその直系主義って、ちょっとナニだね。高額親神の子供だけ可愛がって、ほかの子供には交神させないんだから。」

「む。先生もそう思いますか。実際、発売後6年経って、ネットをざっと見なおしても、直系主義的プレイについての記述は3箇所でしか見たことがありませんし、そのうちの2箇所で、"交神しない戦闘用員を産む鬼畜プレイ"、"他の子供は使い捨てです。非道といえば非道ですが…"というコメントがついてます*1。どうも皆そう思うらしい。」

「やっぱり子供をつくらせてあげたいんじゃない。」

「ええ、交神させるのが重要みたいですね。しかしなあ、いかに少ない人的被害で短命の呪いを脱出するか、と考えてしまうからなあ」

「人的被害?」

「はい。一人でも多くの子供に、まっとうな数十年の寿命を与えてあげたいわけです。呪われた状態が長く続くほど、短命の呪いの下にわずか一年数ヶ月の人生を送らなければならない子供が増えますから。そうした人的被害は、早く血統を強化してクリアを急ぐことで、減らせる。」

「でもそれって、現在の不平等さをもって将来の子供たちにつくすってことになるんじゃないかな。現在の子供たちに別の種類の人的被害が生じるということになる。それは難しい問題をはらむよ。」

「そうです。これは、俺屍が本質的に備えている問題ですよ。直系主義を使うときにはじめて発生する問題ではありません。潜在的に直系主義が使える以上、それを選ばずに並列主義を用いていれば、それは将来の何人かの短命な子供たちをもって現在の平等さにつくしているということになるのですから。そういう難しい問題であり、俺屍自体がそれをはらんでいて、俺屍をプレイする以上その問題は背負うことになる*2。といって、難しい問題というのは、背負うからには絶対悩まなきゃ駄目とは言いませんが。ときどき思い出してやってください、程度でよいとは思います。」

「ふむん。それで、君が直系主義を選んだ理由は何かな」

「まず、速さですね。ゲームですから他にも様々に、幾百ものノウハウがありますけれど、それでも直系主義はかなり速度に効くノウハウのひとつです。直系主義で育てることによって、並列主義より相当程度、進行が速まります。僕の好みだと、どっぷりモードをこの速度でやりぬくのが大体丁度良くなるのです。どうも俺屍の感想で、『なかなか強くならず、繰り返しを我慢しなくてはならなくてたるい』というものを時折見ますが、並列主義からくるぶんがかなりあるのではないかと疑っているのですが…」

「他には?」

「上に挙げた、ある種の非情というかシニカルなプレイ態度、たとえばポピュラスエイジオブエンパイアのような、人間の人生をある種の最適化の観点からチューンナップする感覚ですね。俺屍はそれを家族というシステムでやっているわけで、家族というものをこんなふうに表現したしろものは他に見たことがない。言い換えると、このある種の非情さというのは、個人と集団とが利害衝突して後者が優位に立った状況のことですが、そういうのって、個人と集団との関係の構造の一面を浮彫する。その浮彫の趣深さを、濃く味わいたいわけです。」

「もう少しくわしく。」

「言い換えると、僕は核家族に生まれてそれなりに個人主義的に育てられましたから、かつて世に存在したという長子と次男坊たちの愛憎とか、親の決めた許婚とかがどんなものなのか知らない。そうした長子相続制、封建的家族制度というやつは、物語を見聞きしていると時々、打ち倒されるべき障害として出てくるけれど、いったいなんなんだかどうもピンとこない、こなかった。しかし、俺屍で直系主義をやると、そうした事象を生み出す"家督の思考"の一端が味わえるんです。直系のエースに投資を集中して、高額な配偶相手をさがしてきて…そのほうが強いんだから。そういう思考の流れは、ゲーマーとして容易に理解できる。そういう思考を持てて、そういう経験を体験できる。だから、一種のタイムマシンですね。」

「なるほど? あの古風な話に出てくるような、水呑み書生の馬の骨に娘はやれんと大喝する資産家のおじさんとか、嫡子に市井の野良猫娘と駆け落ちされて激怒する旧家のおばあさんとかか」

「そうそう。ああいう人の気持ちって、なってみたいと思いません?」

「…あんまり思わないけど」

「そうですか」





*1 web上での直系主義的プレイについての言及3つ

2ちゃんねる家ゲーRPG俺屍スレ【いつか】俺の屍を超えてゆけ 其の八【きっと】>>387

3サイト合同『俺屍攻略サイトどっぷりモード8年未満クリアのすすめの1021年02月

同サイト良くある質問

なお「鬼畜プレイ」「非道といえば非道」あたりは、Hワード(『万物理論グレッグ・イーガン)とからむかんじがして面白い。



*2 直系主義と並列主義について余話(双子の誕生)

「余談ですが、双子が生まれたときに、並列主義をやっている人はよく、"双子が生まれてしまったorz"みたいに言う。これが直系主義だとそんなことはなく、双子というのは奉納点と交神用時間1ヶ月とが丸儲けですから、大喜びするわけですよ。訓練要員をもう1人割かなきゃいけませんから慌てはしますが、ぜんぜんうれしい悲鳴です。ところが並列主義だと、生まれた双子の片割れは交神させないことがよくあるし、無訓練で在宅のまま一生を終わらせもする。リセット有りでプレイしている人では、リセットしていわば片方を中絶する人もある。なぜって家系が5本や6本や7本になったら、それらを存続させる交神のための毎1ヶ月の時間消費がかさんで、首が回らなくなりますから。」

「ふーん、とにかく誰か1人が交神すればキャラクター全員が1ヶ月お休み、という仕様なのね。同時複数人交神もない。それがポイントだな。」

「その通りです。それでですね、この並列主義における双子の誕生っていうのは、いわばリトル直系主義の表れた瞬間なんです。ある家系を継ぐ子と継がない子とができるわけですからね。つまり並列主義というのは、数本に分けたそれぞれの家系では、直系主義をやっているのだとも言えるのです。ただし、双子が生まれるのは低頻度ですから、そこに決定的な違いがありますけれど。」

「双子が生まれた瞬間には、並列主義のプレイヤーも、直系主義をプレイしているんだということね。」

「そういうことです。」





参考:

指輪世界/俺の屍を越えてゆけ

spcategゲーム[ゲーム]


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