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西の突撃兵

 1918: Storm in the West というウォーゲームをやった。テッド・レイサー作、第一次大戦の最終節を扱ったゲームだ。ドイツ軍の一大攻勢、カイザー戦が行われ、それを受けきった連合国軍(仏英米その他)が反攻する。

 ドイツ軍の精鋭、突撃兵軍団(ストルトルッペン)は、浸透移動フェイズにZOCtoZOC移動ができる。そしてドイツ軍側が後行配置なので、先行配置の連合国軍側としては、どこに突撃兵軍団の攻勢を置いてこられるのかがわからない。よって連合国軍側は、初期セットアップするときユニット配置に隙間を作りたくなくて、べったりとユニットを並べたくなる。

 ところが連合国軍のユニット数が、セットアップすべしと指定されている第一線塹壕ヘクスをくまなく覆うには、3枚ほど足りない。実際には第一線上の重要VP(勝利得点)都市に複数枚置きたいから、5〜6枚ほど足りない。しようがないので戦線後方の勝利得点都市分布の薄い、東のほうをいくらか穴開きにする。そして、そうしてもなお、連合国軍の戦線は厚みのない、のべーっとしたものになる。

 だからドイツ軍は、初期配置の戦力を集中すればたしかに第一線をどこからでも食い破り、浸透移動を使って包囲殲滅し、大穴を開けることができる。

 そしてまた、突撃兵軍団がひとたびマップ上に置かれ、その所在があきらかになれば、彼らの置かれなかった戦線はのっぺりと途切れのない防御線にする必要はなくなり、1マスおきに配置してZOCで守ることができるようになる。だから連合国軍は、そうした平穏な「異常なし」戦線から軍団を引き抜いて、突破された大穴をふさぐために回す。

 この動きはものすごく史実っぽい。これを生み出している初期配置指定と浸透移動のシステムトリックは、見事だ。テッド・レイサーはすごい。

 またこれに貢献しているのが、毎ターン6ユニット行える鉄道輸送だ。このルールによればZOCでふさがれていない都市間は距離無制限で鉄道輸送できるので、防御側は危険な戦線に、よそから引き抜いた戦力を素早く回すことができる。そして戦闘結果表が非常に攻撃側不利かつデッドリーにできていて、最高戦力比である7:1で行った攻撃ですら、攻撃側と防御側の損害期待値は同じである。「はい3/3(攻撃側3ステップロス、防御側3ステップロス)。ざっと5万人ずつの損害ね。」といった調子であり、だから大兵力を集中して殴れば前進はできるが、どろどろすりつぶれていくので、素早く第二線を張りなおされ続けたら攻勢は止まってしまう。

 この「攻勢側よりも防勢側の移動が速い戦争」というのは、世界大戦について読むと、時折出てくる話だ。

 いわく、徒歩の歩兵による攻撃では、鉄条網と塹壕の第一線を多大な損害でもって突破した後、その戦果を拡大することができない。兵隊は水やら食料やらを自前で背負って攻撃に行くのだが、これがせいぜい2〜3日分ほどであり、戦闘でも疲労するので、十数キロも行くとへばってしまい動けなくなる。その間に防御側は戦線後方の鉄道網を利用してよそから戦力を引き抜いて回し、その方面に集中する。これが間に合うので、突破口はすぐに閉塞されてしまう……

 徒歩対鉄道の兵力移動速度比は死活問題であり、第一次大戦後、この問題に対処すべくドイツは陸軍の車輌化を進め、第二次大戦に臨むことになる。ナチスドイツの電撃戦が「優れた戦車による成功」というのは若者の見方で、レベル2ぐらいになると「戦車などなくても良い。大量のトラックが電撃戦を成功させたのだ」とか言い出す。「機動歩兵」なぞいう夢あふれる単語も、mortorized infantry であって、兵員輸送トラックを備えた歩兵にすぎない。しかしそれが強いのだ。第一次大戦直後の工業レベルで、債務にあえぎながら高価な自動車を買い揃えていくドイツ軍の執念こそ、戦訓というものの例である。

 このへんの現象をこの手で見られるのは大変面白い。

 勝利得点の判定処理も巧い。第9ターンに1回目の判定があり、ドイツ軍はそこで最低3点取っていないと負ける。したがって都市を取りにいくほかなく、守りに入ることはできない。そしてこの判定は第9ターンだけにあって、10ターンから先はないので、攻勢がうまくいっていないときにはドイツ軍はそこをくぐりぬけるべく、第9ターンにかなり無茶でブラッディな攻撃をかけることになり、非常に<傍点>それらしい</傍点>。そして9ターンあたりを潮の変わり目として*1、連合国軍の反撃がはじまり、今度は30ターンのゲーム終了時にVPが-15点になっていなければドイツ軍勝利となるので、今度は攻める連合国軍と守るドイツ軍という戦いが行われ、仏英米の兵士がまた数万人規模でどろどろととけていくことになる。だいたい、ウォーゲームは攻勢と守勢が1回は入れ替わらないと、なかなか面白くならないのだが、そこをそつなく処理して、最後まで刺激的に遊べるように作っている。

 実際のルールブック上では、勝利得点は「士気」と表記されており、0点スタートではなくて、「互いに15点スタートで、0点になったら敗北する」と書かれている。そして地図上の都市に点数がふられている。取られればその分減り、とった側は増える。増減はそれだけであり、べつにユニットの損失などによる上下はないので、実質的には勝利得点であって0点スタートでもいいのだが、こう表記してあるのはさりげなく巧妙である。つまり、ぱっと見、「よしパリの5点ヘクス3つを全部取れば勝ち(負け)なんだな」とプレイヤーに考えさせる効果がある。

 ユニットの能力値設定も、ステップロス時に1しか下がらず、突撃兵軍団でいえば6-6-6が5-5-5になるだけだ。そして補充ポイントが最初ドイツ軍側に20数ポイントもあって、「よしこれなら多少の損害など……」と思うように誘導しており、巧い。

 テッド・レイサーはすごい。





*1 潮の変わり目

 第9ターンからは連合国軍にも浸透移動が可能になる。これはドイツ軍の戦術を連合国軍が学習したためだ。ここで面白いのが、ドイツ軍の浸透戦術もまた敵から学んだものであるというところだ。つまり東部戦線のロシア軍からである。ブルシロフという将軍がいて、1916年6月にこの戦術でもってドイツ・オーストリア軍に多大な損害を与えた。しかし1917年、ドイツが封印列車で送り込んだレーニンは十月革命を成功させ、ロシアは単独講和して戦争から脱落する。こうしてドイツは東部戦線の解消をとげ、そこで経験を積んだ兵力を西部戦線に送って準備されたのが、このゲームの序盤、1918年のドイツ軍攻勢、カイザー戦ということになる。だからこのゲームを遊ぶ時は、がたんごとんと鉄道を東に進むレーニンを想像すると味わい深くなる。





参考:

別宮さんの「第1次大戦」内カイザー戦 読みやすく詳細な、素晴らしいサイト。

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