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論理法則より物理法則のほうが偉い

 法則のたぐいには強さのレベルがある。人間の定めた法律や規則は、かなり弱いほうで、破るのは悪いこととされ、それを守らせようという力もあるが、けっこう簡単に破ることができる。次に物理法則があって、慣性の法則とか、これを破ることはできないのでかなり強い。しかし物理法則は偶然的法則と呼ばれる。というのは、この宇宙は事実上一定の物理法則に支配されているけれども、これが別の物理法則だったかもしれない、と考えることができるからだ。物理係数が異なる宇宙を考えることができるので、そこが「偶然的」と言われて、物理法則は論理法則より一段力が劣るとみなされる。論理法則には偶然性がなく、必然的法則とされる。論理法則の代表例に無矛盾律というのがある。いわく、同一の性質が同一の観点から同一の対象に属しかつ属さぬものとされることは不可能である。

 ははは。かわいらしいことを。論理法則とやらより物理法則のほうが偉いに決まっているではありませんか。



 広く色々な物事に適用できるという汎用性と、偉さを混同してはいけません。論理法則というのは、幾多の物理法則を観察した人類がそれらに見出した共通性にすぎません。その共通性は様々な事柄に用いることができるので便利ですが、こと真剣につきつめて考えようとなったら、物理法則のほうがガチであり偉いのです。

 無矛盾律なんというのは、まじめに考えれば、成立するかどうか怪しいしろものです。



 ある一つの物体に、Aであるという検査と、Aでないという検査の、両方を同時に行うこと。これは人類が頭の中でしているぼやけた想定です。無矛盾律やらを言う人は、Aという検査をしながら頭の中でもうひとつ検査を行っているわけで、これはたいがいのことにおいては問題ないやりくちですが、真剣に考えるならぼやけたやり方であり、甘い。おそらくそれは「さて円周率の全桁が数え上げられたとしよう。」というのと同じだ。

 ある実験班を考えましょう。この実験班がすることはこうです。あるレンガを一つ、いまこの日本の東京で「Aである検査機」のようなものに入れて、ほいさとボタンを押してtrueかfalseか結果が出ます。それと同時か一日二日後かに、同じ(規格の)レンガを火星上に持っていきまして「Aでない検査機」に入れ、やはりボタンを押すわけですが、さてこの2回の検査は"条件が違う"。そこでこの実験班は反論します。いや温度湿度の条件は同じにしたよ。検査機を火星の適切な軌道上に載せて行ったから重力係数は同じだよ。万全のシールドで囲って行ったから宇宙線の影響も同じだよ。ビッグバンからの相対距離も同じになるように日付を調整したよ。

 云々云々と、同じである条件を述べ並べていくのですが、この列挙作業が終わる日が来ると思いますか? この実験班は「さてわれわれは条件をすべて挙げた」、そしてそれらはすべて等しい、と言わなければならないのです。

 たいがいのことについては、「さてわれわれはこれで十分というぐらいまで条件を挙げた」で良いので、それでよいんですが、さあいざ真剣につきつめてやる、とやるんなら、「これで十分というぐらいまで」ではなしに本当にすべての条件を挙げなければならない、つまり無限の手順がかかることになります。



 ポイントは、物理法則は他の物理法則からの影響を受けうるつもりでいる、つつましい法則だということです。つまり、たとえば慣性の法則からみて同じ条件にあるものが、一方でAである振舞いをし、もう一方でAでない振舞いをしたとして、そこで慣性の法則はぐっと詰まって泣き出すのではなく、「ああこれは誰か別の法則の影響のせいなんだよ。そいつにも聞いてくれ。」と鷹揚にかまえている*1。いっぽう論理法則というのは完璧なリストを持ったつもりでいる傲慢なやつですから、問い詰めると泣き出すわけです。





*1 「誰か他の法則の影響のせいなんだよ。そいつにも聞いてくれ。」

「もし既知の全法則の話を足し合わせても説明が足りなかったら、それはまだ君たちのリストに載ってないやつがどこかにいるんだよ。探して御覧なさい。」





参考文献:

無限論の教室 ISBN:4061494201 対話形式の文章さんとしては今まで出会った中でもトップ3に入る上手さ。すごく上手いのでわかった気になるが、人に話そうとすると言葉が出てこない。実は理屈を非常に巧妙に、最適に新書サイズに圧縮しているので、なまなかな言い換えでは新書の三倍ぐらいに解凍してしまうっぽい。

理性はどうしたって綱渡りです ISBN:439332305X 論理法則が物理法則より偉いと置いて、そしてそこからいろいろと撚れた理屈を広げてみせた本。皆の泣き方を集めた本と言ってもいい。それらのさまはそれらのさまでたいへん刺激的で、血圧が上がる。

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