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TRPGのアブソーバーと消せない記録

 アブソーバーとは、ヒーローポイントのことである。これはいにしえの007/ジェームズ・ボンドTRPGで、1セッションにつきキャラクターのレベルぶん、行為判定のサイコロの振りなおしができるというものであった。以後さまざまなTRPGで、英雄点とか、ラックポイントなどといった名前で登場している。これらはキャラクターが今にも死ぬ致命的な状況や、シナリオ失敗の土俵際に追い込まれたときにしばしば使われる。つまりそれらは、状態点*1をゲームシステムの有効作動範囲内に収め続けるために付加されたサブシステムだといえる。システムというものは全要素が関連し絡み合っているので、状態点の補正機能に関わらない箇所というのがあるわけではないが、なかでも特に目立ってわかりやすい部分をそう呼ぶ。

 アブソーバーは気の利いた発明である。ところが、そううまくばかりもいかない。人間は適応力が高いので、これらアブソーバーをあっという間に理解し、ゲームシステムの中に組み込んで把握してしまう。つまりアブソーバーまで含めて行為の成功率や安全範囲、リスクを判断するようになる。そうして、けっきょく元の水準と変わらない状態にいることに気づく。つまり、アブソーバーに意味がなくなってしまう。

 おそらくアブソーバーは不可逆な損失、蓄積する倫理的負債として設計されるのがよい。この典型例としてTRPG迷宮キングダム』を挙げよう。迷宮キングダムでは巧みに構成された4種類のアブソーバーがある。このうち「気力」はかなり可逆的で、1セッション中に始終増減する。したがってほとんど即座に理解されて資源管理のシステムに取り込まれる、のだが、「気力」を得るためのダイスロールで1ゾロが出ると、次なるアブソーバーである「民の声」が1点減点される仕掛になっている。民の声はそれ自体でもヒーローポイント的に消費されるが、セッション中に増加/回復せず、減る一方である。そして民の声が一定値を割り込むと、災厄イベント表が振られ、それによって「本国の国有施設」と「国民数」が削られるようになっている。この最後の2つのアブソーバーのうち、前者は貨幣によって復旧可能である。そして国民数も、シナリオの報酬やイベント表によって増加はするし、その減少による数値的影響もやはり貨幣などによって補いうる。だが、国民の損害は、やはり不可逆なものだ。その損失は倫理的な負債であり解消されることはない。ずっしり重く考える必要はないが、じわりとしたブラックユーモアが蓄積する。この蓄積により、国民数はゲームシステムの中に取り込まれず、常に使用に少程度ながら躊躇を伴わせるので、アブソーバーとしての機能を保つ。

 アブソーバーと質的に類似するものにプレッシャーがある。システムの有効作動範囲から外れ落ちた状態点を受け止める安全網がアブソーバーだとして、プレッシャーは有効作動範囲外に留まろうとする状態点を押し上げ、せっついて、ジレンマがきつくリスクのある状況に挑ませる油圧リフト的なサブシステムである。この典型例にはコンピュータRPG俺の屍を越えてゆけ』を挙げることができる。俺屍のキャラクターは呪いにより約2年、24ターンの期間をもって寿命死する。よって安閑とノーリスクなレベル上げをすることに、やはり倫理的負債が蓄積する。そうしてある程度の危険を冒し、つまり冒険することが誘導される。

 いずれの場合にも、システムによる回収の不可な蓄積、人的倫理的な負債が、ある程度有効である。これらは消せない記録と言ってもよい。俺屍家系図を書き毎月の記録をとるべきゲームであるのはこのためだし、迷キンの国家シートには累積損失国民数の欄が、キャラクターシートには累積損失配下数の欄があるとよいと思う。



*1 状態点

 ある時点でのゲームプレイの状況のこと。各プレイヤーキャラクターのヒットポイント・マジックポイントその他のパラメータや、シナリオの進行状態やフラグ等諸々を指す。

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