指輪世界の第五日記。基本的に全部ネタバレです。 Twitter 個人サイト

Aの魔法陣とクトゥルフと近代唯物科学とオカルト

「汎用システムなんて人気が出たら、他のシステムが売れないじゃあないですか」

「そんなこともあるまい。Aマホ(Aの魔法陣)のうたっている汎用性は、6割がた先生の例の強気なハッタリでいらっしゃると思う。現状の市場にない、独自の部分へ広げている、ということだろう。既存のファンタジーものの市場は避けているようだし、固有のデータリストの中で閉じた戦闘-成長ゲーム、スラッシュアンドハックも無い。クトゥルフみたいな様式化された破滅プロットもできない、というのは、Aマホは問題を解決する方向にしか指向できないから、たぶん。」

クトゥルフ… 正気度はさすがに真似しづらいですが、意図的にミッションを失敗すればいいのでは?」

クトゥルフは単位が行動だから、最後の一歩一歩を操られるように破滅につっこめるけど、Aマホは単位が『解決』だから、適合しにくいんじゃないかな。」

「ああ、そうか… ただしですね、Aマホでは 勝利条件:病原菌の保菌者となった少女を抹殺する などといったクリア条件にも平気でするわけです。アンハッピーなオチも設定できる。」

「いや、まあそうかもだけど、クトゥルフ様式のオチというのはそういう倫理的に意味のある悲劇じゃないんだよ。これはクトゥルフ論になるけれど、クトゥルフのオチは、人類の無意味さというか、一神教的に見て…『この世の造物主に会ったが、そいつは人類のことなんか全然気にしていなかった』という。」

「おう」

クトゥルフ神話って、近代唯物科学そのものの世界観なのよ。ここ250年、科学がものすごい力を発揮したんで、われわれ、それに沿って研究してきたわけだが、『これどうも俺たちって何の究極的目的も持たずにできあがっているてきとうな産物なんじゃね?』って」

「うはは」

「研究していけばいくほど、知識を得れば得るほど、それがあからさまになっていってしまうのが、薄々わかっていながら、学ばざるを得ない。それにそれを知りたくもある。でも理解したくない嫌な予感もする。だから『クトゥルフ神話』技能は『科学』技能でもいいんだ」

「じゃあクトゥルフ神話ってオカルトではないということ?」

「オカルトって、『覆う、隠す、囲った部屋』みたいな語源の言葉なんだけど、そういう、余人に対して隠し崇めることで信者組織を成したり、あるいは自ら意図的に知らずにいたまま有難がる、みたいな態度は、クトゥルフ神話には無いよね。主人公たちは足を止めずにつっこんでいくし、真理は、つまりあの神様たちは、人間から見つからないように隠れてなんかいない。人間のことなんてまったく問題にしていない――眼中に入っていない、気がついてすらいないからだ。人がどこかで足を止めて振り返って、人工的な儀式を構築してそこまでの経路の遅滞障害とし、後から来る人間を押しとどめて、自分を上位に置くヒエラルキーを作り出せば、それがオカルトなんだけどさ」

「人為的な障害は構築されていないけれど、嫌な予感はあって、それをおしてつっこむと、偉大な神様が居ると。そいつがすべてのものの、したがって自分と人類とを作った第一動者であり、しかも自分のこと、人類のことをまったく無視している。そいつから見て無価値であると。一神教的世界観からは、なるほど、ある種の悪夢ですね」

「連中もたいへんだ。本質的には、われわれ皆たいへんだが」

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