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嫌な暴力コント/ミュンヘンとヒストリーオブバイオレンス

 ミュンヘンを見ました。スピルバーグについてhanak53さんが去年、かなり面白い見方を書いていて、それをマインドセットして観に行ったのが非常に成功しました。いわく


スピルバーグ監督のフィルモグラフィでいえば、おそらく『A.I.』あたりから進行中だったと思われる、「高度なエンターテインメント」と「謎の実験」と「嫌がらせ」の渾然一体化というか、あるいは「湖のほとりの閑静な別荘で、とっても上品で優しげなおじいちゃんに、ゲログロなうえに全く救いのないイヤ〜ンな怪談をしみじみと語り聞かされる」ような語り口も、とうとうここまで到達したか、と思えば感無量。「すげえ、ひでえ、なんだこりゃ」と感心
ニューヨーク/カブール/ファルージャ



 ミュンヘンの場合、ドイツ警察の手際の悪さ、モサドの感情的で大予算で少人数すぎる仕事が見どころ。暴力シーンの段取りをチェックして観ていると、素人目にも愉快な不手際が次々とまき起こり、それらを数え上げるのが楽しい。一種の間違い探し映画です。言い換えると、暴力シーンがいちいち嫌なコントになっており、バイオレンシャルユーモアのネタ披露会となっています。さぞやスタッフが幾重にも知恵を出し合い練り上げたものに違いなく、DreamWorksの暴力シーン演出の技術蓄積・発展が強くうかがえます。

 後半はおかんや主役の瞳に光が入りまくり。テーマと話自体は渋めの王道な構成ですが、パターンの豊富な画面づくりと、撮影技術からくる迫真性が、コントな暴力演出を成立させているのだと思う。つまり、ちゃちかったらどっちゃらける危険がある。真面目な顔でファニーなことをやりきるには、真面目な顔が非常に真面目な顔でなくてはならず、やはりいまでこそ撮り得るようになった映画なのでしょう。



 一方で、ヒストリーオブバイオレンスも負けていません。これがよくわからないのですが、どうやら嫌な暴力コントの演出力を競う戦いが繰り広げられているらしく、こちらでは主人公の即応的で現実的な無敵ぶりが非常に良く笑えてきます。一般に、現実的な圧勝を描くには、連綿たる戦闘前準備、段取りを演出するものですが、ヒストリーオブバイオレンスの主人公はそれ抜きで、動作の最適化だけで勝つので、変な美しさがあります。そしてテーマ的には渋い「若いうちは無茶をやったけど、嫁持って子が生まれたら身を固めるよ」「人は変われる」なので(本当)、その無敵さがテーマに対してオーバーパワーとなっており、真面目な顔でファニーの構成ができています。やはり撮影技術からくる迫真性が展開を支えており、ボスが「どうやったらしくじれるんだよ! 今の状況から、どうやったらしくじれるんだよ!」と叫ぶ時、「わはは確かに。でも*現に*あんたらしくじってるじゃん」と思わせる説得力が出ています。

 その暴力演出のカウンターウェイトとして、ご家庭の演出がまた豊かで、テーマを成立させています。第一がノリノリでベルトを抜き取って脇に投げ捨てた奥さんが、その壁に当たった音で一寸びっくりする動作で、この一描写でもって一気に安心できました。その後、息子が最初にいじめっ子に負ける差し合いで、負けることではからずも実質的に勝ってしまうというやりとりの妙を見せるのもすごい。なまなかなもんじゃないです。オチで、がっくりへこんだ奥さんの向かいに娘が皿を並べて話を落とすのもたいへんに見事な終わらせ方です。



 嫌な暴力演出勝負の次なる一手はどこから出てくるか。油断ならぬところです。

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