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公理体系の矛盾の実務性能

「久し振り。息災だったかい」

「先輩。まあまあですね。人の矛盾した物言いに怒り狂う日々ですよ。怒るというのは、あれは血圧が上がっていいですね。」

「昔はものに怒らざりけり、か。でもね彰弘君。この世は矛盾する手もある。強いよ。」

「はあ。 ?」

「そのむかし、ゲーデルという先生がいて、いわく、証明したい定理を十分たくさん証明できる公理体系は、矛盾してしまうし、矛盾しないようにつつましく組んだ公理体系は今一つ言いたいことも言えない、手持ちの少ない公理体系になってしまう」

不完全性定理ですね。教養書で読みました」

「その理屈で考えてみるとこうだ。ある個人が自分の人生や行動や言動を無矛盾に構成しようとすると、持てる定理が少なくなってしまう。実現できる定理が窮屈になる。」

「矛盾しているほうが手広い?」

「そう。無矛盾に組めば、検証可能になり、信頼性と再現性も得られるが、矛盾上等と叫べば手広さとスピードが得られる。後者のメソッドで有能な実務者は多いという。」

「なんだか大切なものを失う気がしますけども」

「うん。安価なトレードオフではないと思う。互いにね。まあうまい比率に調節するといい。猫のゆりかごという本があったが、知ってる?」

カート・ヴォネガットですね」

ヴォネガット先生はおっしゃった。ある種の宗教的ドキュメントの強みは内容の矛盾とその文量だ。矛盾したうえで大量に定理が記述されていれば、そこから、かなり自由に定理を導き出すことができる。」

「矛盾した公理体系ではどんな定理も証明できるというやつですか。」

「そう。ある程度の論理構造を持ちつつ、要所では矛盾してダブルスタンダードやそれ以上の複数スタンダードを備える。それぞれを基盤にして行動体系を組めば、人間のどんな行為でも支持できるわけだ。便利だ。実際には、人間に納得できる論理展開のステップ数というものがあるから、あらゆることが可能になるわけではないけれど」

「ドキュメントの強さ、ですか… そういうところに強さを見出すのか。む、オーウェルも『1984年』でそんなことを言っていたような」

「ああ、うん。それだね。」

「理屈じゃない、飛び込んでいけ、っていうテーマの漫画とかも、そういうメソッドで戦えって言ってるんですかね」

「特に人間社会のダイナミクスまわりは急激に肥大化したし、わかられないことは知性の主たる戦いの一つでもあろうしね。再現したり検証したり丁寧にこつこつ無矛盾に体系を組んでいこうというアプローチだけが通るわけではなかなかないよね。」

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