指輪世界の第五日記。基本的に全部ネタバレです。 Twitter 個人サイト

後裔をファットキャットにする意志

ねこかわいいよねこ

「それで君の言うファットキャット? って? 何?」

「Fat Cat 毛づやのいい猫、ふかふかしてる猫、いいもの食べてる猫、といったところです。脂ののってる猫っているでしょう。」

「アブラね」

「街中で、苦労して暮らしている野良猫というのは、数メートル距離からで見てそれとわかるものです。毛に光がなくて、がさついている。触ってみると、砂ぼこりで乾いています。傷痕があったり、肌荒れしてたりもしますね。」

「ふむふむ」

「野良猫であっても、いい食べ物をもらっているやつは、遠目に毛が光ってますから。むくむくして、でも毛は寝ていてね。触れればつやつやの、なめらかなもんです。体格も内側からくる張りが違う。脂肪ですよね。脂がのってる。そういったことです。その、『エマ』3巻の第16話。」

「川下りとピクニックの回ね」

「それがそれです。長い髪を梳かして、ひらひらと衣を着込んで。もう、こいつら…まぶしいですね。きゃっきゃぴょこぴょこちゅんちゅんと。どうしてくれようかと。どう思いますか。読んでいて。見ていて。<傍点>こうしてくれようと思いませんか</傍点>。Do you want to make them like them? そして、連中は、そう思った。」

「誰が」

「そこの登場人物たちの、それより以前の世代の連中です。そしてまた、われわれについても。」

「どういうこと」

「われわれもまた、ファットキャットです。アフリカでは今日も飢えと奴隷化と少年兵と… われわれはこうして今日も蛋白質と油脂を食べ、YouTubeを見てコミケに行く。この首都だってついむかしを見ればはるかにバイオレントな環境だったわけですよ。(東京の下層社会)」

「それは、うん、読んだ、なるほど?」

「留意すべきなのは、たとえば200年前ぐらいからこっち、われわれの十世代前ぐらいからの連中の努力ですね。そうした往昔の連中の努力。連中は思った。自分たちの子孫を、むくむくと毛並みのよい、ふかふかした物体にしてやろうと。食に飢えたり、粗衣寒風に耐えたりしないようにしてやる、と。ファットキャットにしてやる、と。」

「明治政府とかの話をしているのかな」

「たとえばその人たちです。それに1000年前も、数万年前も、50年前にも25年前にも、そうした連中はいた。そして連中は後裔をファットキャットにしてやろうとなんやらかんやらやった。それは天運地の利人の和でうまくいったり、うまくいかなかったり、企図した展開からまるで違う転がり方をしたり、他人様に無駄な迷惑をかけたり、いろいろであった。 だ、が、」

「だが?」

「それらは、あなどれん。連中の努力はあなどれん。」

「どうして」

「連中の、後裔をファットキャットにしようという意志、その事績、それは連中がもうとっくに死んでいるとはいえ、甘いものじゃない。それに逆らって外れるにしろ、それに沿って援用するにしろ、ちょろいしろものではあるまい。穴も隙もあるだろうし、決して万事よろしく組み上がってもいまい、びびる必要はないが、簡単でもやはりないはずです。」

「…? おばあちゃん家にいくと何かにと食べさせられて、服を着せられる、とかいうこと?」

「そうです。この現状はそうしたご先達たちの欲求でできているのです。非常に強力なそうした遺物の集合体といっていいでしょう。われわれをファットキャットにする。これに尊敬したり感謝したりしてもいいし、逃れ逆らい戦ってもいいが、あなどることはできない。」

「またその手の極端な解釈を言い始めたな。この日本の現代社会が、そんなすごいものか?」

「さて…どうですか。」

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