スタージョンの9:1
「それは、スタージョンの法則ではないですかね。スタージョンの法則」
「『みなさん、SFの9割はクズであります。……しかし同時に、あらゆるものの9割はクズなのであります。』というやつね」
「それです。それって、人の鑑賞行動の話かなと思うんですよ」
「ほう」
「人は、1つ、気に入る作品を見ると、そのジャンルの他の作品ももっと見たくなりますよね」
「君が黒髪ロングの…」
「その話はよろしい。そのとき、比較的短い間に、他人からの評判などを聞かずに、手当たり次第っぽく、そのジャンルの作品を見る時期があります。たぶんこの時期に7作品ぐらい見ます」
「7? ふむふむ」
「するとこの時期には、事前の評判などを確認せずに、フィルタリングの精度を落としているので、気に入る作品に出会う頻度は低くなります。頻度が低いので、気に入る作品は――ずばり、ありませんでした」
「そりゃ低いな」
「そう、低い。ですので、たぶん7作品見たぐらいから、鑑賞ペースが落ちて、事前にゆっくり評判を確認するように、より高い閾値でフィルタリングするようになります」
「まとめ買いしたりしなくなるのね。あるいは、別のジャンルのものを見ていたり」
「そうです。なかなか見る気にならなくなる。すると、鑑賞ペースは落ちますが、フィルタの精度は上がりますので、次に見るたぶん3作品目で、気に入ったものに出会います」
「3つか。次の3つでついに、ピンと来るものに引き当たる」
「はい。たいへんそれを気に入ります。すると、また、手当たり次第に見る時期に入るので…」
「そうして、9:1の割合になるんだ、と。ふーむ。周期的にマイブームが訪れて、マイブームとはフィルタリングの精度を下げることであり、その長さによってたとえば9:1の比率が生じる、ってわけだな」
「そういう仕組みでもあるんじゃないかと考えますね」
「すると、君の」
「その話はよろしい。」