失敗の連続とモチベーション/世界IDOL大戦
「タイムスリップものとかとは違うの」
「そこそこ違いまして…いいですか? これをもうひとつ。ヴァイス。サイズ。同じ。はい。あと、パンとこのバターおかわりで。お願いします。えーと何でしたっけ」
「過去にとんで戦国武将に入れ替わったりするようなやつとは違うの」
「ひとつ、違うのは、サバイバルや成長や成功ではなく、むしろ失敗が主題となることですね」
「はぁん?」
「入れ替わりとかだと、その時代の戦乱の中で身ひとつで生き残れるか、地歩を、立場を築けるか? といったジュヴナイルものの社会的な成長が主題になる場合があります。あるいは、過去の歴史をより良く改変することに成功できるか? といった主題のものもあります」
「それらとは…ちょいと違う…わけだ? こちらもアッサムボック。同じものを。お願いします」
「むしろ失敗が、愚行が、主題です。失敗の連続として歴史が描かれる。ギャビン・ライアル先生の言葉にもあるでしょう」
長年陰謀事件の調査を手がけてきたアグネスは、歴史は陰謀でなく、ヘマの集積だという考えを持っていた。
「ライアル先生こそ玉言の倉だな。乾杯!」
「ギャビン・ライアルに。それぞれ各国、努力はしているんですよ。14歳なりの重みのない責任感と、14歳なりの浅知恵でもってね。しかしそういうものなのです、世界は、ある面では… 失敗の連続なのです。そのように描く。そこがそこそこ違う」
「そのへんに独自性があるのか?」
「それもあると思います。たとえば、失敗が多いということは、視聴者にストレスがかかりますね。そのストレスは、アイドルマスターという、キャラクターが公式および多数の二次作品によって十重二十重に強化され、キャラクターたちが深く傷つくことがない素材だからこそ、包含できるのかもしれません。」
「もしこういうパロディでなければ、あるいは無名、非力なキャラクターたちだったら、やりにくいか。なるほど。」
「こんな話が見れるのはニコ動だけ! ですよ。正味の話。本当に。」
「あと細かい話ですけどより一般的に、アイドルマスターでいくと登場人物のモチベーションが地味に滅茶苦茶抽象的に上向きなんですよね。開口一番で『目指すはもちろん、トップ(アイドル)』っていって世界征服を始めて、そのモチベーションの説得力がシリーズ一本続けられますから。やはりキャラクター間の関係の重要性は増加していくんですが、それでもやはり世界を争い続けられるのって、地味に多くないですよ。」
「どういうこと」
「ちょっといくつかの作品のキャラクターたちを想定してみてください。ドイツやらアメリカやらに配役してみて、世界を争うぞっていって始める。10話ぐらい続けて、まだ世界を争いつづけられてますか」
「うーん」
「途中から、キャラクターのモチベーションとして、キャラクター間の愛憎等の関係性や、あるいは固有のエピソードが前面に出過ぎてきて、『世界のトップになるんだ』って言わせ続けにくくなってきませんか。」
「そういうものかなあ」
「アイドルマスターはオリジナルがゲームですからね。ゲームの世界観というのは大枠で言って行動的なものですが、その中でも、トップアイドルになる、というかなり抽象的な目標を第一に置くアイマスは、別文脈に投入してもキャラクターを動かし続けやすいというところがあると思います。」
「そういうものかなあ」
「いいかげん眠いんでしょう」
「まだそうでもない」