指輪世界の第五日記。基本的に全部ネタバレです。 題名一覧 最近のコメント プロフィール Twitter

僕の考えた最高の翠星のガルガンティア

「こんばんはー。何見てるんですか。ああ、翠星のガルガンティア。2話か」

「こいつは面白い。もう見た?」

「ええ。ラストの圧勝、一同どん引きでしたね」

「あそこは見どころだ。何点かポイントがある。まず第1点、なぜ船団の一同がどん引きしているかというと、海賊は物資や人員の略奪を目的としているのであって、船団を皆殺しにするなどといった目的ではない。その被害者である船団側も、その略奪や誘拐へ対抗したいと思っているのであって、つまり海賊と船団は、互いに、殺戮レベルの抗争を開きたいと思っているわけではない。」

「略奪する相手じたいがいなくなってしまったら、海賊という商売が成り立ちませんもんね」

「しかし、あの少年は海賊の艦船を大破させ、人員を皆殺しにした。これはつまり、海賊と船団の対立の強度を、臨機的な略奪とそれへの対抗、ていどのレベルから、人員を殺戮するレベルに押し上げた行為だ。これによって両者はおそらく、それまでより数段強度の高い抗争状態に入ることになるだろう。それは船団の利害からは、そのままではむしろ害のほうが大きい。だから一同はどん引きしているのだ」

「ええー」

「次に第2点、あの少年はいったいどういう武装組織の、どういう訓練を受けてきた兵士なのか。彼のチェインオブコマンドと交戦規則はどうなっているのか」

「チェイン? 何ですそれ」

「chain of command と書く、命令系統のことだな。大規模な武装組織には命令系統というものがあって、そこから見ると集団は4つある。命令系統上の味方、それ以外の味方、敵集団、中立の集団だ。兵士は、命令系統上の自分の上長の命令に従って行動しなければならない。それ以外の味方集団は、味方であって互いに助けあって戦いはするが、命令は受けなくてよいし、むしろ受けてはいけない。A師団に所属するα連隊の中佐とβ連隊の少佐がいたとして、この中佐は、少佐に命令することはできない。」

「命令系統上の属している枝が違うから、ですね」

「そうそう。味方で、階級が上であっても、命令することはできない。では、兵士の行動はこう規定される。命令系統上の上長の命令に従う。それ以外の味方集団とは協力するが、命令を受けたり出したりしてはいけない。敵集団とは常に戦う。中立の集団に対してどうするかは上長の命令に基づく。」

「ふむ」

「ここで、あの第2話ラストの状況をみてみよう。彼は銀河なんとかという本隊との連絡が途絶して、命令が受けられない状態にある。そこで接触したあの船団は、定義されていない未知の中立の集団である。その船団に襲撃をかけてきた海賊も、未知の中立の集団である。このふたつは対立しているようだが、彼の銀河なんとかという組織からはどちらも、敵とも味方とも定義されていない。ここで船団の少女から助けてほしいと言われた。どうするか」

「海賊を攻撃しましたね」

「そこがポイントだ。あの少年は上長の命令をあおがずに、中立の集団との交戦に入ったわけだ」

「女の子に頼まれたからでは?」

「兵士は、たとえ相手が味方であったとしても、命令系統が違えば命令を受けてはいけないものなんだ。あの少女は味方ですらない。そして、中立の集団に戦闘をしかけるというのは、非常に大きな行動だ。これを上長の命令をあおがずに行うというのはきわめて重大な軍規違反、ほぼ叛乱行為といっていいものだ。」

「えー」

「だって組織、武装組織の本隊から見て考えてごらんよ。一時的に連絡手段が途絶した兵士がいて、しばらくたって連絡が復帰したら、その間に現地のなんらかの集団と交戦状態に入っていて、

『いやー連絡が切れてて命令を受けられなかったんで…現地で親切に食料をくれた味方っぽい偉いさんが助けてって頼んできたし、負ける気がしなかったので戦い始めました』

とか言ってきたら、どうなる。そんなことを認めれば、その武装組織は一兵士の恣意によって、任意の集団との抗争状態に引き入れられることになってしまう。」

軍法会議ものですか」

「そう、まったくの叛逆行為だよ。一定規模以上の武装組織はそんなことを認めたら成立しない。」

「じゃあなんで彼はああするんです」

「それが第3点だな。どうしてあの少年が海賊との交戦に入れるか。おそらく実は、規定はあるんだよ。それは、銀河なんとかに属さない『漂流部族』、それも戦闘ロボットを持っていないような武力に乏しい集団は、どう扱ってもよい、それも現場の判断で、好きにしてよい、という規定だ」

「ええー」

「というのは、あの少年の属する銀河なんとかだが、第1話冒頭の台詞からすると、15年間従軍してやっと二級市民になれる、という、軍務市民権の社会体制をとっている。それまでは睡眠、飲食、生殖の自由すらない。こりゃ大変だね?」

「ですね」

「所属して戦争に参加している兵士に対してこういう扱いをしているのが、銀河なんとかという組織なわけだ。そうして宇宙生物と死力を尽くした、自己犠牲をいとわぬ戦いをさせている。戦いを勝ち抜いた兵士は、優秀であることを証明し、市民階級に加わることができる。ではその組織は、『漂流部族』、戦争への参加を忌避し戦力を提供しない集団を、それも戦闘ロボットの所持すらできていない非力な集団を、どう扱うだろうか?」

「あー、そう、そうですね、その兵士たち以上に扱うとは、思えませんね?」

「過酷に扱われている兵士たちよりさらに下に、おそらく扱うだろう。軍事的に有意な戦闘装備を持たず、軍役に参加して戦い市民階級を目指す意思すらない集団など、協力しても敵対しても些事だ。現場の兵士単位で好きにしてよい。組織レベルで交渉するつもりがない。カースト外の民だ。あの補佐AIが上長の命令をあおがせようとせず、少年の決断だけで交戦するのは、『漂流部族』との折衝には本部の命令を必要とせず、兵士に裁量が与えられているためだ」

「うわー」

「さらに、面白いのが、第4点、あの少年は、本隊との連絡がおそらくもう二度と回復しないであろうということを、すでになかばわかっている」

「あー、そうかな」

「だって氷漬けになっているはずのものが、はるか昔にそうだったらしいけれど今はこの通り一面の海だよ、と言われたわけだ。だからAIは180日間だと言っているが、あの撤退ワープの時に何かあったんじゃないかな、と考えることができるわけだ。」

「ふむ…兵士としては困るじゃないですか」

「彼は困っていないよ。だから、第2話の時点で、もうほぼあの少年は、兵士じゃない、と言っていいと思われる。この話は、兵士である少年がこれから兵士でなくなっていく、という話にはならないだろうね。もう彼は、命令を待ち交戦規則に従う兵士では、ほぼなくなっているよ。彼は冷凍睡眠に戻って連絡の回復を待つ気などない。連絡はおそらく二度と回復しないからだ。本部と宇宙生物との戦いがどう推移したにせよ、もし本部が健在であれば、星を覆った氷がふたたび溶けるほどの時間が経過していて、この星が未発見なままであるとは思えない。これはちょっと推論すれば考えられることだ。」

「おー」

「しかしあのAIは、常に本部が存在するという仮定のもとに、兵士とロボットを補佐するために作られたものだから、本部が損失したなどという状況を仮定することができず、そういう発想じたいをすることができない。だから今、あの少年がやっていることは、自分は本部との連絡の回復を待っているんだよ、自分はひきつづき宇宙生物と戦うために行動している、あくまで本部に忠実な一兵士だよ、と、AIをなだめすかしつつ、実はいまや自由な判断のもとにこの法外の民たちの世界に地歩を築こうとしているということなんだよ。」

「おおー」

「あの少年にとって自らの力の源泉となっているのはあのロボットだが、そのロボットは今いわば、狂ったAIが握っていて、それは存在しない本部に忠実である。少年の行動や意思の中に、AIからみて本部への叛意ととらえられるものがあれば、少年はロボットを、あるいは自分の命までをも失うだろう。これは面白い。スリリングだし、ユーモラスでもある」

「いま好き放題言ってますね?」

「ははは。そして第5点、そこで彼がしたことは何か。それは船団の少女の『助けて』という言葉端をとらえて、わざと拡大解釈し、海賊との間の対立レベルを激化させたことだ。それによって現地の2集団間に紛争が起き、その中でとびぬけた戦力を持つ自分に船団が依存するようになる。そうして自分の重要性が確保され、船団という組織が利用できるようになる。集団間に高強度の争いがなければ、彼の持っているロボットも珍しい喋るスクラップ扱いしかされない。だから少女の言葉を奇貨として交戦し、船団に対して『悪気はなかった、申し訳ない誤解があった』という言い分の押し通せるぎりぎりの線で紛争を拡大する。ミンチ同然に分解されたあの海賊たちはそのための生贄ってところだ。一方でAIの詰問に対しては船団の歴史資料だのという時間稼ぎをする。彼はよく考え、巧みに立ち回ろうとしているよ」

「妄想の域ですね」

「だから、あの少年とロボットに夢や希望を見て、彼らに正義やその他のものを期待し、信託する人間…あの少女とその弟なんかがまず筆頭だが…そうした人間は次々と裏切られ、破滅していくだろうね。さっそく第2話で少女が、自分たちを保護してくれるものとしてのロボットに信託し、依頼し、失敗したわけだ。やがてあの今はクールな眼鏡お姐ちゃんなんかも、泣いてあの少年とロボットにすがりつき、そして見捨てられるんだと思うとわくわく…はしないが、うーむ。おそろしい話だな」

「もどってきてください、先輩」

「この解釈は自信あるよ。だいたい25%くらいの確率で当たる気がする。昼飯3食ぶんを賭けてもいい」

「えー、待って、じゃあ代案を考えます、そうですね…」

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