指輪世界の第五日記。基本的に全部ネタバレです。 Twitter 個人サイト

諦めた神と諦めない神/指輪物語の魔法使いたち

5人の魔法使い

「いやーウォーオブザリング新版、いいですね。面白かった! お疲れ様でした」

「お疲れ、ありがとう。ずいぶん洗練されてるね、これだけ要素をたくさん入れてありながらかなり運用しやすかったと思う。デザイナーはフランス人か…やっぱりドイツボードゲームのルーリング、デザインを学んで、そうとう追いついてるんだなあ…」

「そのようですかね。しかしサルーマン(サルマン)が即殺されたのは傑作でした。あれは何しに来たのこのおっさんって感じでした」

「あのカードは場に出す順序を考えとかないといけないな」



「それとこのプレートを2人ぶんで。…はい。さっきさ、サルーマンが何しに来たのこのおっさんって言ってたじゃない」

「はい、ええ?」

「けっこうそれはちかごろ思うようになってさ。サルーマンって、けっこうあれ、おっさんだと思ってしまっていいんじゃないかって」

「はあ。?」

「あれさ指輪物語ってさ、あのガンダルフやサルーマンほかの魔法使いたち、それにエルフたちはさ、西の海の先の遠くに本国があるっていうじゃない。なにか神々の国、天界みたいなところがあって、そこからやってきてるんだ、そこが彼らの故郷なんだっていうよね」

「いいますね」

「僕が脳内ソースからエスパーするにさ、その神々の国とやらは、じゃあ平和で静かで安らかないつまでもいつまでも皆さん幸せに暮らしておりますって場所かっていうと、そんなでもないと思うんだよね。そっちにはそっちでやるべき仕事があって、住んでる連中はそれに取り組んでいて、そこそこ互いに競い合っているところだと思うんだよ」

「ふむ?」

「それでさ、あのガンダルフやサルーマンは、その神々の本国でのキャリアエリート、ばりばりの出世組か、というと、そんなことはないと思うんだよね。本国で進められている重要な仕事の人材だったなら、ホビットや人間たちの国に派遣されて来ないと思うからさ。だからガンダルフやサルーマンドロップアウト組なんだよ。その神々の本国でなにか仕事をする競争には負けて、出世コースからは外れちゃったわけ。それで海を越えた東の果ての田舎の仕事をあてがわれてやって来ている」

「えー」

「で、あの指輪物語の悪役、サウロンってのも、あれでしょ、もとはガンダルフやサルーマンと同じ、神々の国から来た魔法使い相当品なんでしょう、設定上。」

「はい、そうですね、同格のイスタリです」

「だからこのサウロンもそうなのよ。神々の国でのキャリア競争からドロップアウトして、辺境のドサまわり仕事に出されたエージェントだった。それが田舎仕事をこなしているうちに、本国の目と力がおよばない隙をいかして独自組織を作り始めたのがサウロンガンダルフやサルーマンや、ほかの数人の魔法使いたちとやらは、それを抑えるために改めて本国から送り込まれたエージェントって構図になる」

マッチポンプみたいな話ですかね」

「そう。ただし本国はできるだけ小さなポンプだけ送って火を消したい。本国にはもっと本気で進めたい仕事がいくつもあるんだからね。だから個々人はかなり力があるとはいえ、キャリアコースからは外れているほんの数人を送り込む。それで、あとは現地のエルフや人間の国を動かしてなんとかしろ、というオーダーなわけ。もし、サウロンの組織がもっと本当に拡大して大火事にエスカレートしたなら、神々の国は本気の戦力をごっそり投入してくるかもしれないけれど、そのときはガンダルフやサルーマンの仕事は失敗したという評価になる。本国の莫大な戦力を動かさずに済むように、安いコストで火を消せ、というのがガンダルフやサルーマンがいいつけられている命令なのだから」

「息苦しい話になってきましたね」

「だからおっさんなんだと思うんだよ。あの、ガンダルフ、サルーマン、それにサウロンも込みで、設定を聞くと大魔法使いだ、半ば不死の神みたいなものだ、とか言うんだけどさ、あんまりノリノリの万能者だっていう立ち回りじゃないじゃん? あれは上にもっと出世組たちの本国がのっかってるから息苦しいんだよ。すごい魔法の力とやらも全然使おうとしない。それは持ってはいるけど個人の力というより神々の国の力というのに近いもので、あまり現地の人間なりホビットなりには見せたくない、理解させたくない力だからだ。だって元はといえばサウロンじたいが神々の国のエージェントだったわけだから、現地人からすればそいつが火事を起こそうとしてるのはお前ら神々の国の責任じゃないか、お前らがそんなすごい魔法の力を持っているというのならそれで火事を消してくれればいいじゃないか、自分のマッチを自分のポンプで消せよ、という話になるよね」

「あー? なりますか」

「まあ、完全に神々のポンプだけに頼る、という話にはならないにしても、現地人の国との交渉がこじれる可能性がある。だからあまりそのすごい力とやらを現地人に見せたくない。ぎりぎり追い詰められたピンポイントでこっそり使う。どう使ったかはできるだけぼやかして、内容の説明はなるたけしない、みたいに立ち回らなきゃならない。そのうえで、かつ、それら現地人の国々を対サウロン戦争参戦に向けて動かしていき、その国々の力を借り、現地人たちの血を流させて火事を消さなくてはならない。こりゃあ息苦しい仕事だよね。おっさんだよ、おっさん」

「ふむう」

「それでさ、そういう外れくじのドサ回り田舎仕事に送り出されたおっさん魔法使いたちなわけだが、その境遇を肯定的にとらえることができるタイプの人格もいる。それがガンダルフだ。ガンダルフのおっさんは、現地人の国々を回って通信連絡役をやっているんだが、それでホビットの村に行くときは現地技術の花火の玩具かなんかを持って行って、それを見せて遊んだり、現地の風習である煙草を一緒にキメたりしている。つまりこのおっさんはかなり現地同化していて、ここもなかなかいい土地じゃないか、現地人との付き合いも楽しいじゃん、と思いはじめている。任務は任務でやる気をなくしてはいないけれど、それに成功できたとしてももう本国のキャリアコースに返り咲けるとは思っていなくて、諦めがついている。もう無理っしょ、いいよと。ここはここでいい所じゃんと。その諦めが伝わっているんで、現地のエルフの国の連中なんかはガンダルフを信用できている。こいつは神々の本国の利益から、ある程度ではあるが離れた立ち回りができるだろう、と評価されているからだ。その一方で、諦めていないのがサルーマンだ」

「サルーマンは諦めていないんですか」

「あのサルーマンのおっさんは神々としての人生を諦めていなくてさ。なんだこのくそど田舎、こんなところでこのまま腐っていけるか、俺は同化なんて決してしないぞ、と思っている。だから住むところも神々の国みたいな建物を選んでそこに住んでいるんだな。今回派遣された五人のエージェントの中のリーダーで一番有能で、プライドも高くて、自分に与えられた任務自体に内心ある種の怒りを抱いている。だもんで現地のエルフたちからは信用されていないし、実際に裏切って、本質的には同じ立場であるサウロンと連携することで一旗挙げようとする。ガンダルフのおっさんいわく『彼は指輪の力に魅入られた』とか言うけどさ、現地人のホビットにこのへんの説明を、しても長いししたくもないから、おもいきり丸めて表現するとそうなる。ど田舎に派遣された怒れる有能なおっさん。それがサルーマンだ」

「それで賭けに敗れて最後はちんぴらみたいにくたばってしまうわけですか。なんだか物哀しいですね」

「神々も楽じゃない」

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