ゾンビものの洞窟の中心に／This War Of Mine
「それでその休み中はそのゲームをやってたんですか」
「そう。ディスウォーオブマイン、This War Of Mineね。最初に作業台を作って、次に工作台を作って…っていう例の方式のサバイバルものだが、題材が内戦下の都市で、昼間はスナイパーに撃たれるから、外に出てアイテムを集められるのは夜だけ」
（4GamerさんとGameSparkさんのレビュー）
http://www.4gamer.net/games/040/G004096/20141118085/
http://www.gamespark.jp/article/2014/12/08/53550.html
http://www.4gamer.net/games/251/G025160/20140324060/
α版では，ゲームスタート時に「30日間生き延びろ」というメッセージが表示されるが，Miechowski氏によると「30日間生き延びたらオーケーなんていう戦争はないから，このメッセージは削除する予定です」とのことだ。
「陰鬱そうなゲームですね…」
「悪いことが起きると精神状態ステータスが悪化するんで、それを回復できるヘビースモーカーや酒飲みっていう特徴が強みになってるのも面白いね。精神状態が4段階目になるとまったく行動コマンドを受け付けなくなるので他のキャラで話しかけて立ち直らせなきゃならないんだが、全員4段階目になってしまうとまったく手も足も出ず『詰み』になってそのまま全滅しちゃうというね。一周目は一人死んだ後に残り二人が空腹や病気とそれを併発して終わった」
「うわあ」
「それでエンディングで各キャラの死に様が一言ずつコメントが付く。これを作ってるやつは相当なガチだよ。面白いゲームだが楽しいゲームではないという強烈な独特さがある」
「ゾンビMODが待たれますね」
「ん？ いや、秋大君、それは違うよ！」
「えっ」
「秋大君には話したことなかったっけ、そもそも、ゾンビものって…」
「あー、『そもそも』ですか。飯を食いながらにしませんか」
「そうか話してなかったね。何がいい」
「中華にしますか。麻婆茄子」
「麻婆茄子。いいね」
「やはりここのはうまいな。山椒がなにか違うのかな」
「油も違うような気がしますね。うーん。すみません、このきゅうりときくらげを一皿。お願いします。はーい」
「そもそも、ゾンビものというのは、人々どうしの恐怖感、群衆どうしが敵となるという状況にテクスチャを貼って見立てたものと見ることができる。たとえば、ショッピングモールに立て篭もる系のゾンビものでいえば、
『消費社会に奴隷化され心を失ってショッピングモールをさまようだけになった豚どもめ！ 死ね！』
→ 『だがそれはモールを私物化して楽しく籠城生活を送る俺たち（主人公たち）もだがな！』
→ 同類なので一種の構造的報いを受けて主人公たちもやはり死んで全滅する
という、群衆と、けっきょくはその群衆と同類である自分たちへの憎悪、それをゾンビというテクスチャを貼ったものなわけだ」
「へー、ふーん」
「あるいは高速で走ってくる系のゾンビものは、同等な戦闘力を持ち近距離にいる多数の敵…つまり『昨日までの隣人が銃やナタを持って襲ってくる！ 勝てない！』であり、すなわち民族浄化なり内戦なりにゾンビというテクスチャを貼ったものと言える」
「へー、ほーん」
「昨今、これらのゾンビものが多いのは、冷戦が終わってすごい巨大なひとつの敵がいなくなって、人々どうし、群衆どうしが敵として考えられるようになってきたためがあると思ってるんだが、」
「あ、白酒ください。先輩も？ 白酒一本。グラスふたつ。はーい」
「ありがとう。で、だからさ、ゾンビものというのは、そういうふうに、人々どうしの恐怖感にテクスチャを貼って、それそのものに直接の言及にはならないように、その周囲をぐるぐる回っていたようなものなのよ」
「はあ」
「そうして、デッドライジング、DayZ、ラストオブアスのようなゾンビサバイバルものゲームが盛んに作られてきた。食料と物資を拾い集めて工作し合成していく、例の方式のやつだ。面白かったろう？」
「そりゃ楽しかったですね」
「そこに、そのサバイバルものの方式を使って、このThis War Of Mineは、『ゾンビ』を抜いて、『内戦下の人々どうしの生存闘争』をやらせて見せた…！ テクスチャを剥いで捨てて、これまで皆が直接語らずに周囲をぐるぐる回っていたその中心を作りあげてみせたわけだ！ こいつはすごい！ ゾンビものが洞窟の壁に踊る影なら、ディスウォーオブマインは洞窟の中心で燃えている焚き火だよ。こいつはゾンビものの一種の種明かしみたいなもんなんだよ！」
「もっと飲みなさい。はい」
「ありがとう…だから、ディスウォーオブマインにゾンビMOD、ゾンビ版を作るなんてのはさ、無用なんだよ。これ自身がすでにゾンビものそのもの、その高純度なそれみたいなもんなんだからさ…これがそれなんだよ…」
「この残り持ち帰りますね？ はーい。ご馳走様です、締めで。お会計で」
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