コミティア134 デス魔道エヴァQ 続き
前回 からの続き。この続きはいずれ公開します
「それで新スタジオを飛び出して古巣のスタジオに戻ってきてみると、こっちはガラガラでね」
「もぬけの殻だ」
「実働スタッフがいなくなっててフロアはからっぽ、機材は放置、流行ってた自転車通勤をする者も絶え、ゲンドウくんはかつてあれほどやりあってたはずのお偉いさんじみた格好なんてしちゃってて、そのうち企画動くから、ってだけで、やっぱ毎日やることない」
「黒レイ。記憶喪失で別人ってひどい。破であんなにハッピーエンドだったのに」
「いやまあ…今作のこの黒レイさんが別人なのは、実際、前作の破がハッピーエンドだったからとも言えまして」
「なにそれ」
「つまり…前作がウテナエンドだったと言うと話が早いのですが」
「そうそう。ド傑作ですが…あれのオチは、呪われた世界、業界、集団、組織、場所、それ自体に勝って変革するってのはそうそうできないにせよ、そこに囚われて同一化していた人間をひとり、必死に説得して、その場所から外に出る気にさせる、その集団の中の椅子を捨てさせる。主人公はその努力によってずたぼろになってぶっ倒れて消えるが、その説得は成功して、囚われて同一化していた人間が一人、そのやばい場所から外に出る、そういうオチの話だったわけです」
「ウテナがアンシーを説得して、あの学園から外に出すということね」
「前作、破のラストも事実上これです。デスマ続きのひどい職場で、わたしはここですり潰れるしかないの、すり潰れたあとも交代要員は十分いるからいいんです、って、完全に社畜思考をのみ込まされちゃってるインターンの子を一人、シンジくんは必死に救った。説得に成功したんです。だから、その子はその呪われた場所、呪われた業界から卒業した。退職したんです。潰される前に実家に帰った」
「白レイ故郷に帰る」
「そう。そして白レイさんが自嘲して言っていた通り、専門学校から無限に代わりが供給されるので、インターンの子という存在がいなくなるわけではない。一人説得しても別に、別の一人が入ってくる。前作はあくまである一人を説得したというハッピーエンドにすぎず、呪われたデスマ業界そのものを倒したり変革したりしたというわけではないので、構造的にはまた同じ椅子に座らされる同じ立場の人間が出てくる。それが黒レイさんというわけです。それでやっぱりフロアに寝袋しいてる」
「下にダンボールもう2枚くらいはさんだほうが…OAフロアってあれけっきょく鉄板だから冷たいんだよ」
「てっきりラブラブレイシンジルートのハッピーエンドと思ったんだがなー」
「まあウテナさんもアンシーさんと結ばれたエンドなわけではなくて、別離してもそれでもいいんだ、ハッピーエンドなんだ、っていう話ですから。白レイさんも14年寝込んでる人のそばで座っているというわけにもいかないですし、主人公くんが才能があって食っていける世界はこの呪われた嫌な世界のほうで、白レイさんと一緒に白レイさんの故郷で食い扶持を探すような道にも行かなかったので、こうなるわけです」
「うーん?」
「それで白レイ故郷に帰り、黒レイは別人なので、渚カヲルといちゃいちゃしはじめるのか」
「やっぱりモテるんですよね。愛され系で、誰かは寄ってくる」
「ピアノの連弾とかして」
「そうそう。君とおんなじ雇われ監督さ、とか言う。自分のスタジオがない、子供さ。企画始まるまでヒマだから二人で習作してようぜ、良いリハビリになる、とか言う」
「でも崖に連れ出して地獄を見せたりするぞ」
「次の企画に向けての現状説明と説得ですね。個人のレイヤーで白レイさんを救い出したことが構造のレイヤーでは意味がなかったこと、そして、業界のレイヤーとしてはダウナー系ハッタリアニメのデッドコピーを蔓延させて碌なことにならなかったこと。君の側の事情はわかるが世間はそこをそうは見ていない。だから、あらためて新たなエヴァを作り直すことで、同じ作品として、同じ作品を使って切り返し、現状を覆し、自己を再生するしかない。こういう説得をしてくる」
「ワナだ! 逃げろ!!」
(以下 デス魔道エヴァQ - 指輪世界の第五日記 )