ピンクな乱数とその波
これはウォーゲーマーアドベントカレンダー2020の12/5日付け記事です。
(一昨年2018年の記事はこちら。)「踊る!大本営会議」は鋭意制作中です。
ボードゲームデザインで、ピンクな乱数という言葉がある。
GDC2018でエンゲルシュタイン氏がした講演でまとめられているが、
ホワイトな乱数:次の出力がそれまでの履歴にまったく影響されない乱数。
例)ダイスの出目をそのまま使う。これまで出てきた出目は次の出目にまったく影響しない。
ブラウンな乱数:次の出力が履歴に強く影響される乱数。
例)コイン投げをして表なら+1、裏なら-1の増減を蓄積していく値。これまでで+8になっていたとしたら、次の出力は+7か+9のいずれかというごく狭い範囲に絞れる。
これはカラードノイズの考え方を援用しているといえる。ホワイノノイズ、ブラウンノイズ、ほかにもグレー、ブルー、パープルなどがある。
そしてエンゲルシュタイン氏が、ボードゲームの乱数としておすすめしているのが、ピンクな乱数だ。
ピンクな乱数:次の出力が履歴にある程度影響され、ある程度予測可能だが、ときおり大きく外れる乱数。
人間はピンクな乱数をエンターテイメントとして好む、というのだ。人間が興味を持つのは、まったく予測不能なパターンでもなく、まったく予測可能なパターンでもなく、その中間にある。なるほど理屈といえよう。
ピンクな乱数は、たとえば、ダイスを使うゲームであっても、通常の結果表とクリティカル/ファンブル結果表を使い分けることで実装できる(多くのTRPG等)。
また、「ゾロ目が出るたびに振り足していく(Tunnels&Trolls)」などといったやりかたもある。これらも出力がピンクな振れ幅になるわけだ。
ウォーゲームでも「通常ダイスと奇襲ダイスと奇襲時コラムシフトダイスを振らせる(Operational Combat Series)」などといった仕様でピンクな振れ幅を作っているし、チットを1つずつ皿から引いていくチットプルの仕様も、適度に予測不能であり予測可能でもあるピンクな乱数だといえるだろう。
そして、過ぐる年、この面できわめて成功したタイトルの、大きく進歩した仕様がある。
「パンデミック」の感染デッキだ。
パンデミックの感染デッキは、リシャッフル時に捨札を山札に足して切り直すのではなく、捨札だけを切り直して、それまでの山札の上に積む。
この仕様によって、
①ゲーム開始直後には予測不能
②いちどリシャッフルが起きると(捨札は確認されているので)あるていど予測可能になる
③リシャッフル後にターンが進むにつれて、(絞り込めるので)さらに予測可能になっていく。次の1枚が完全に予測できるところまで行く場合もある
④さらに進んで捨札を積んだ部分を「過ぎる」と、また予測不能になる
という段階的な推移をする乱数になっている。
予測可能性が段階的、連続的に増減して、波のように、満ち引きをする仕様なわけだ。
いわばピンクな乱数の波だ。
これがごく簡潔なルールによって実現されており、パンデミックの素晴らしく劇的なプレイ体験を形成している。
この仕様の応用性は、まだ掘り切られていないと感じる。たとえば独ソ戦のような空間的に広大で、それこそ多数の「都市」があり、敵の攻勢準備を観察し読めているかと思えば意外なところから大攻勢が起きて不意を衝かれたりする…
そうした戦役を表現することはできないだろうか? それはポイントトゥポイントかもしれないし、ヘクスでも出来うるかもしれない
という応用の話になると、そうとうふわふわした話にはなってきますが、こうしたデザインの仕様、技術を発展させた新たなタイトルをぜひ目にし、遊びたいものだと思っております。