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本質の無益さ

 一般に、本質は重要ではない。

 物事の善さ、楽しさ、幸福さというものは、たいがい、その物事固有の性質からではなしに、その物事が他の物事と共通して持っているものから生じる。

 物事固有の性質すなわち、ゲームのインタラクティブ性だとか、映画のモンタージュ性だとかを追求していく姿勢は、ニッチをきわめる志向である。それは、その志向をもつ人間集団を形成してその中でのヒエラルキーを競争するという現象の一部であって、そこから生じる幸福は特殊な幸福、すなわち勝利の幸福である。特殊性・固有性・文脈を認識し記述する知性を競って誇るマニア自慢の努力の幸福である。

 一般的な幸福は、普遍的な性質から生じる。たとえばかっこいい男の子は映画にも小説にも現実にも出てくる。それを鑑賞する楽しみには、各作品の文脈を調べておく必要などない。それは先行投資の要らない堅実な幸福である。幸福になるためには、こちらのほうが重要である。



 かつて越野が言ったジョークをひとつ。


「わたしのどこが好き?」

「性別。」

 しかし、それでいいのだ。それで問題ない。アイデンティティを愛してもらおうという思考は不幸ルートである。

 その裏面であるところの、アイデンティティを愛そうという思考も、不幸に陥りがちな志向である。恋慕対象の固有性を記述していって、「だから俺は○○が好きなんだ」と論じていく萌え語り行為はそれであり、恋慕者集団のヒエラルキーの中での語り技術の競争であり、マニアの努力であり、たいがい、幸福に通じていない。

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