14歳の女の子の国家意思/世界IDOL大戦
「やあ」
「あいあい」
「また観てる。好きねそのアイドルマスターの動画」
「僕はこの庭上げPのアイマス架空戦記のファンなんです。各国にアイドルを割り振って世界大戦をする。先日、めでたく2シリーズ目が完結しましてね」
「世界大戦とアイドルか。好きなものをふたつくっ付けたって感じだな」
「そういうものではあるでしょうね。しかし、これは、僕は、一理あると思うんですよ」
「何が?」
「アイドルが近代国家を担当するというのが。というのはですね、」
「待った。それは長くなる話なのか」
「それほどでもないと思いますが。どれくらい長くしますか」
「飯とビールをやりながら話そう。この前のあの黒いやつうまかったから」
「ドイツのですね。アッサムボック。あの梅の旨味みたいなの気に入りましたか」
「梅…? クエン酸方面ってことか? よくわからんたとえだが。あれはよかった。ただ食い物の選択にまだ工夫の余地があると思う。冷たいハムとかじゃなくて、もっとこう…」
「いやあ素晴らしい。あったかいパンにうまいバター。これでいいんだよ。完璧だから少しずつ飲もう。で、それで……うん、アイドルと近代国家っていうのはなんだ。聞こうじゃないか」
「はい。このシリーズはどちらも、ドイツ、ソビエトロシア、日本、アメリカなどそれぞれの国を、1〜数人のアイドルが担当して演じています」
「アイマスのメインキャラは全部で10人くらいだっけ。今だと15人とかか」
「そんなところですね。そうすると彼女らがその国の戦争・政経上の決断を行っていくわけですが、その決断の根拠はほとんど、それぞれの持ちネタやら、アニメ等の駄洒落やら、時事のはやりものやらを前振りにして演出されるんです。ここでは具体的には説明しませんが」
「ふん。たとえば持ちネタを振ってから、真珠湾を奇襲したりするのね」
「その通り。」
「コメディみたいなものだな。それでしっちゃかめっちゃかになるというわけか」
「はい。しかしですね、世界大戦というのは、世界がしっちゃかめっちゃかになるということではないですか」
「ほう」
「かつてマッカーサー将軍は、日本の民主主義を12歳、英米そして独のそれを45歳と評しました。民主主義、あるいは国家意思を、年齢でたとえる。それにも一理があると思います。でも45歳ってのも、どうですか、45歳ほどのお茶目さんたちじゃああるまい。かれらもなかなか元気でご活躍じゃあないですのよ」
「まあ第二次世界大戦はドイツがはっちゃけて始まったわけだしな。なにかにと事情はあるわけだろうが」
「先輩。以前、ベスト・アンド・ブライテストを褒めてたでしょう」
「ああ、あれは面白いでしょう」
「傑作です、非常に面白かった。アメリカの軍・官・民の最高の人材をもってして、なぜベトナムで誤謬から脱することが出来ず、敗北していくのか、その圧倒的な失敗。しかしですね先輩。中規模・大規模な組織というのは、その指導者に気力知力体力経験を備えた45歳の傑物たちを備えてなお、誤謬を犯し、失敗するものです。世の中にはまだまだデスマーチが、コンティンジェンシーが、想定事態が、好評開催中ですよね」
「あると聞くね」
「大規模であるほど組織の挙動は難しく、外側から一個の意思として見ると、愚かである。それほど愚かでいられるほどに、組織の力とは強力だとも言えましょう。まあ、いいでしょう、ここでは組織の難しさ愚かさの内部構造には触れません。宿題です。ただ、近代国家を1〜数人の人格に擬人化してとらえるとするならば、それはアンクルサムやジョンブルや45歳の壮年やではなくて、もっと適当な人格もあるのではないでしょうか」
「ふふん。その人格とは」
「その人格とは、多少の経験を積み自他の利害を勘算して決断できる45歳の壮年よりも、それよりも、持ちネタや駄洒落や流行りもので決断を行う、14歳ていどの愚かさを持った若者のほうが、より適当なのではないか」
「言うじゃなーい」
「ごく粗い一次近似としてですがね。より細かく組織というものの内側を考えればもっともっと面白くなっていく話だと思うのですが、そこにとりあえずあまり踏み込まず、国家を1〜数個の人格の挙動としてとらえるていどのそとみの粗い話ならばです」
「気力知力体力経験に満ちた45歳の傑物たちを組織化すると、14歳の女の子ができあがるってわけだ。それが近代国家の、あるいは集団の、驚異の力だというわけだな。賢人の総合としての14歳の女の子、そういうものが国家意思というものだと」
「えっ…そういうことを言ったわけになりますか」
「世界がしっちゃかめっちゃかになるわけだ。いいぜ、その第2シリーズの完結を祝おうじゃないか。作者とアイドルマスターとニコニコ動画と、世界と集団とハルバースタム先生に乾杯だ。乾杯!」
「乾杯、けっこう聞し召してるようですね」
「そうでもないよ」