指輪世界の第五日記。基本的に全部ネタバレです。 Twitter 個人サイト

コミティア134 エヴァンゲリオン感想本 デス魔道エヴァQ サンプル

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11月23日のコミティア134 え11b「ボストーク通信社」さんに委託の「新世紀エヴァンゲリオン」の感想本のサンプルです。
これに加えて後半部分と、従来の感想とでの総集編となります。後半はいずれ公開します

 

「えー Q?」

「いやいや。面白いですってエヴァQ。あまり、やりすぎるのもよくないとは思うんですが、Qについてはひとつ勘弁してもらいたい」

「勘弁?」

「はい。ある作品を、その作者の経験と重ねて読む、というやり方です。あまり、やりすぎると、一般性が失われすぎて人読みになりすぎるので、そうですね。『突出しすぎた英雄的勝利のその後』とでもしたものですが、じゃあ、見ていきましょうよ」

「Qかぁー」

「まあまあ」

 

「いいね。かっこいい」

「かっこいいね。ここは好きだよ」

「かっこいい作戦の目標はシンジくんの救出だった! で、次です」

 

「なんか知らん人らからいじめられはじめる。誰だよ! わけがわからない。」

「前作の続きと思えんよね」

「そこですよ。まさに、エヴァQは前作の続きと読むしかない。そこが面白いところでして、じゃここでちょっと止めて、エヴァ破の最後のとこ見ましょう。みんな大好き」

「止めるんかい」

「いちいち予告が再生されて、とばせないのうざったいな…」

 

「行きなさいシンジくん!」

「かっこいいなあ」

「そこですよねえ。では、さらに遡って、デス&リバース&Airを」

「さらに戻るんかい」

 

「ここで魂のルフランが入って切る! マジ最高でしたね」

「まあいいけど」

「デス&リバース&Airと、この破のラストとが、どちらも同じ『納期ギリギリに追い詰められたプロジェクトの現場チームの最期の納品の日』である、という話はしましたよね」

「最終の最終の最終までスケジュールをひっぱったもんで、スポンサーがスタッフ全員の首を切るけど、成果物じたいはかろうじて世に出る、という話ね」

「はい。デス&リバース&Airでは、世に出た成果物のその後に描写の重心が寄せられていました。成果物が大ヒットし、世を席巻することによって、全裸の美少女の大量コピーが市場を埋め尽くすんですよ」

綾波レイのことか」

「それで『いま作るべきものとは! 現代人の心の欠落をどう埋めるかなんだよ! 君ィ!』とか抽象度の高いことばっか言って仕事したつもりになってるスポンサーのおじさんたちも、『やったぜ』とか言ってどっか去っていく。人々は商品をたくさん手に入れてニヤニヤして幸せになり、やったぜ。これにてプロジェクトの、チームの任務は、仕事は、終わった。各位おつかれさまでした。」

「補完がどうのというやつか」

「一方、この破では、同じ最終納品日の修羅場を描写するんですが、もっと個人的なほうに重心を寄せて描いているといえます。ぼろぼろに疲弊した現場戦力の前に迫る最終納期! 矢折れ刀尽き、金も機材もコネもとうに使い切ってもはや手がない。スタッフは皆、爆弾かかえて突撃してってくたばった。そこで綾波レイさん──専門学校出ただけで死ぬ覚悟だけ毎回決まってるけどイマイチ弱いインターンの子──が出てきて、またお得意の役を買って出るわけです。『わたしがやります。』」

インターンって」

「『私がやります。死ぬ覚悟はできてます』ってね。あんた、初登場時、1話とおんなじ手だな! それしかやれる手がねえ! まあド根性一本槍、死ぬ覚悟だけがたった一枚の切り札なんですね。『わたしここしか職場ないんで…それに、わたしが潰れても次のインターンの子が交代で入りますから、大丈夫です』」

社畜じゃんか!」

「そこで主人公シンジくんは叫ぶ。

『自分には代わりがいるから潰れていいんだとか経営者目線を内面化してどうする! お前は人間個人でしょう!? うおおピキーンと来た! やってやるぜこの神がかった演出アイデアで最終話をきわめて小さい工数で無理矢理着地…いや天まで放り投げてやる!! お前という一人の人間個人を救うために!!!』
『やめなさい主人公くん!! あなたの役職でしていい仕事の領域を超えているわ!! その役職でいられなくなる!!』
『やりなさい主人公くん!!』
『プロジェクトマネージャー!?』
『もうここまで追い詰められたら地も天も、コンテもセル画もない! 主人公くんのしたいそのわけのわからないアイデアでやれ!! やっちまってみせろ!!』
『うおおおー!』

『やっちまった…こんなのを納品しちまった…こんな観念的でダウナーなハッタリで本線をぶっすかすような手がアリ…どころか今後の標準になっちまうぞ…』

…そしてエンディングが流れるんですよ。『もう願いは、寝たい。頼むから眠りたいだけだ。フロアにダンボール重ねて敷いたやつの上でいい。君の隣に倒れ込んで、半年くらい、こんこんと眠らせてくれ。』」

社畜ソングじゃないか!」

「げに。そういう曲、そういう映画ですよ」

「いい曲だよなあ。君のそばで眠らせてって。世界は美しいけれど、僕の仕事が終わるまで会えないけれど、それでいいけどって。切々としてて」

「あのTV版のおめでとうエンディングはシンジの起死回生大逆転のアイデアだったというのか」

「すべての戦力が尽きた土壇場で、じゃあ逆転して勝ったかっていうと、やっぱり勝ったとはいいがたいかもですが、現場の修羅場のなかで、その社畜的に心のすり切れて潰れる覚悟のできていた誰か一人~数十人かのスタッフを救う?ことができたのではないか、主観的にはそういう話だったわけです」

「うーん?」

「それでQに戻ってきますよ。」

 

「それでその続き、主人公くんがインターンのスタッフの子の自己犠牲を止めさせ、なんとか最終成果物をでっちあげて納品に成功し、寝床にぶったおれてこんこんと眠り込んだ、個人としてのオチの続きです。エヴァQ。主人公くんが14年の寝床から起こされ、連れてこられると、なんかスタジオは知らんスタッフばかりで、以前の上司たちも冷たくてね。」

「何もするなとか、何よ。大逆転して勝ったんじゃないのか?」

「それですよ。あの最終話のオチは、やっぱりあくまで戦力ゼロに追い詰められての苦し紛れの強引無理矢理な手であって、やった個人の主観的にはスタッフを救う神の一手だったかもしれないが、現場周辺より少し外から先では大不評、大失敗とされたわけです。素晴らしい大ヒットアニメシリーズのインテレクチャル・プロパティーが華開き、スピンアウトやサブシリーズががんがん作れる巨大なエコシステムがはじまる──ガンダムシリーズのようにそれにぶらさがった出版、玩具、関連業界の数万人の人間が数十年食っていける作品世界になる──はずだったのが、なんか観念的なダウナーなオチで炎上して、監督個人に帰属する発展不能なプライベート・フィルムだということになってしまった」

「あくまで庵野監督個人しか『本物の続きが作れない』難しい作品世界だということになってしまったわけだ」

「そんなのシンジのせいじゃないだろ。学園エヴァとか無理でしょ」

「そう、ハナからそんなん無理な作品世界じゃね説もある。新ロボットと新キャラを出して派生シリーズを量産できるようなものでもなさそうなかんじはある。でもこういう水物商品に出資するスポンサーってのは、それくらいの無理さを押し通せるくらいのドリームな夢を見れると思ってるから出資してる説もあるんでね」

「それでその後やるだけやっておおかた失敗したわけだ」

「試みはしたが、TV版中~終盤に垣間見させた大きなドリームには到底及ばなかった。そしてそれは主人公くんのせいだ、主人公くんがTV版最終話でとちくるった演出をしたからだ、という話になったわけです」

「ええー」

「だっておおかたそんなことを言っていたでしょう、当時?」

「まあそうかもしれん」

「なんじゃこれは、とは思ったけどさ」

「まあ皆びっくり驚いたものですよね。それでさ、ポイントは、当時、主人公くんの上司であったマネージャー、ミサトさんと、技術主任、リツコさんとが、一緒に最後の修羅場を乗り切った仲間だったはずなんですが、主人公くんが最終成果物を納品してぶったおれて14年間寝込んでたというあいだ、この人たちはどうしていたのか?」

「なんか新しい組織作ってるじゃん」

「ヴィレ?」

「そう。この人たちは仕事休んで寝てます、というわけにもいかなかったようで、独立して新しい会社作って、それで同じ業界で、もとのスタジオとシェアの食い合いの戦いをして働いてるわけですよ」

ネルフと同業他社というのか」

「劇中でそんなようなこと言っているでしょう? そして、当時、最後の修羅場で『やっちまえ! その起死回生の神のアイデアでGOだ!』と言ったはずの上司たちが、それをしらばっくれる。これは、この14年間を新しいチームを作って仕事をしていくうえで、当時現場で《しでかしてしまった伝説的失敗》を、全部《主人公くんが暴走してやってしまったこと》という話にしてきたからなんですね。いやー当時彼が突っ走ってしまって、誰にも止められなくてね…われわれはどうかと思ったんだけど彼がどうしても譲らなかったんで…どうしようもなくてね…」

「ええー」

「ははあ。14年もチームにいないやつにはなんだっておっかぶせられちゃうものだよな」

「あとアニメ業界は作品の成功失敗をすべて監督の個人性、作家性に集約して、一枚看板としての英雄にまつりあげがちなとこもあってと思いますが。だものでこの14年間、業界全体でもこの新チームでも、悪かったのは主人公くんだ、という話になっているわけです。こいつがあの奇跡的大成功になるはずだった作品の最後で作家性優先のとんでもないやらかしをしてすべてをだいなしにしたやつか…」

「だから、知らん新人から、二度とエヴァ作るな、とか言われるわけだ」

「そうそう。すっかりそういう話が定説にされちゃっている」

「なんだよ何も知らないのに! 現場にいなかったのはこいつらの方だろう。ミサトとリツコはなぜ話してやらない」

「そう思いますよね。けっきょくミサトさんというのはイケイケで攻勢的な作戦を回していくのだけが得意なマネージャーで、こういうところで部下の名誉や人格をしっかり守る、みたいな器がなく、芯が弱い。あの最終話は、マネージャーであるミサトさんが主人公くんにゴーを出したことに決定的な、大きな管理責任がある。しかしそれを、主人公くんの個人的作家的やらかしであって、わたしたちはプロです、という顔をすることで、14年間食ってきたわけです。そういう人一人と数人ぶんの小さな欺瞞のうえにこの新チームの、業界での立場を作ってきた。だから今になって主人公くんに再会すると、合わせる顔がないから目を合わせない。本当に鬼マネージャーならぬけぬけとド真正面から対面したうえでしらを切ってみせるところですが、この人は半端に人の心があるのでうしろめたいんですね。14年前の当時に『やっちまえ!』と叫ぶくらいには人の心があり、また、14年後の今に目が合わせられないくらいにも人の心がある」

「かわいい」

「そおかあ?」

「ほらここ、伊吹マヤさんが幹部してるのも良いですね。当時現場にいてミサトさんが『行きなさい!』ってゴーを出したのを知っている3人目です。ちょっとした共犯関係みたいなポジションで、そういう人がやっぱり新チームの幹部をしてるものなんですね」

「なにも良くないよ。こんなさあ…お前飼い殺しにするから二度と働くなよみたいなさ…」

「アスカ来た」

「アスカさん! このアスカさん良いですよね本当。この、14年ぶりに現場に戻ってみるとさあ、当時の現場のエースが今も現場のエースやってるわけですよ」

「あー。まだエヴァやってんだよって」

「そうそう。お前が大ヒットさせてくれたおかげでずっとエヴァやってんだよ、相変わらず現場で戦って食ってんだ、お前はどこで遊んでたんだ、この野郎、ワハハ、ってね。それで眼とか内臓とかひとつずつ壊してて」

「あるあるなわけだ」

「アスカ、眼や手を壊しがち」

「まったくこの世界の現場スタッフは主人公くんを含めて皆、心も身体もボロボロ壊して働いててね…。そういう職場でアスカさんは引き続き現場のエースをしつづけてきたわけですから、無事だったんだねよかったー、ってそういうんじゃ済まねえだろぉオイこいつめー、あいさつもごぶさたですみませんでしただろぉー? って肩のひとつもこづいてじゃれてる。主人公くんは愛されキャラなので」

「被愛妄想だ」

「いやアスカはシンジのこと好きでしょ」

「ラブラブアスカシンジですよ。ほらここのエンジン点火のために一手も二手も先に動き始めてるアスカさん、実に現場のエース。この人とミサトさんだけ十数年前の修羅場鉄火場世代で、空気に汗と涙のにおいがついてる。新人たちは、えーわたしの担当ですかあ、死ぬほど働きたいわけじゃないです、ってノリでね」

「あー」

「ホワイトになりつつある。いいことだ」

ミサトさんお得意の強引強気な作戦に、新人たちの世代はいまいち食いつきが遠い。『どうせこの手でしょ、この準備がいるでしょ』と先回り・並走して動いてくれるのはアスカさんだけなんですね。ヴィレだ、新チームだ、と言うけどミサトさんにとっての真の戦力はけっきょくアスカさんだけだってこと」

「ミサアスか」

「突撃系マネージャーミサトさんに突撃系現場エースアスカさん、この2人が互いに『やっぱこんな突撃野郎はわたしでなけりゃ回しきれん』って阿吽の呼吸で働いてて、ブレーキ役参謀に技術主任リツコさん。この3人が中核の女所帯なわけです。ほかはあんま名前おぼえなくていい」

「名前はおぼえろよ」

「実際こうしてミサトさんアスカさんの突撃上下ペアで十分回っているので、主人公くんの働く椅子はないんですよね。別に戦力としていらない、必要ない。だものでやっぱこんな飼い殺されていられん、って、この新スタジオからは抜けるわけですが…」

「ミサト、けっきょく首切りチョーカーを切らない」

「半端に人の心がある人なんですよ。ニンジョウ!」

「そうかなあ」


(以下後半)