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俺たちのラムちゃんのために/新世紀エヴァンゲリオンTV版

LFL
【Qのネタバレはありません】このエントリにヱヴァンゲリヲン新劇場版:Qのネタバレはありません。





「おはよう。それ何でエヴァンゲリオン見てるの」

「おはようございます」

「おはよー。さっきまで、TV版のエヴァンゲリオンラムちゃん、って話をしてたのよ」

「何それ」

「TV版エヴァンゲリオンをプロレスラーの八百長興行として見る、という話はしましたっけ」

「俺は聞いた」

「えーと、以前言ってたね」

「ああいった線の理屈なんですけれど」





「あの話は、主役ロボットが負けたら人類は滅ぶのよ、って言うじゃないですか」

「言うね」

「それであの組織は、いちばん上の目標が、こいつらに負けたら人類が滅ぶという相手を倒していく、それで人類を守る、っていう目標のプロジェクトになっているわけですね」

「そうね」

「この目標は、なるほどごもっとも、そういう敵がいるならそれと戦う巨大な組織を作って、世界中の人々から莫大な予算を集めて運営する必要があるよな、というごもっともな話です。ところが、その巨大組織の中に、上層部クラスで秘密委員会みたいなのがありますね」

「ゼーレってやつね」

「それです。たいへんごもっともな目的を掲げて実行していることになっている公的で巨大な組織の中で、各部のリーダー級の幹部が非公式の横の連絡会を作っていて、そこが実質的な意思決定をしているわけですね。どこかしらありそうな話ではあります。ただ、そうだとするとですね、秘密の連絡会で意思決定をしている、っていうんだったら、その連絡会は巨大組織の目的を裏切って行動しているという理屈になると思うんです。だって目的通りに動いているんだったら、秘密の連絡会なんて作らないで、公的な意思決定過程に沿って運営していけばいい。だから、何か公的な目的を裏切っているはずだ。」

「ふむ?」

「そして次に、主人公のいる戦闘担当の部局のトップとその参謀のおじさん二人組ですが、彼らも組織編成上は巨大な公的組織の下に位置しているはずなんですが、実際には謎の連絡会から謎のテレビ会議経由でこそこそと指示を受け取って動いている。彼らもやはり公的な指令系統ではなしに、表ざたにできない指示系統で行動しているわけです」

「しかもそのうえで、その秘密連絡会から何度も何度も、『お前ら、ちゃんと俺たちの指示通りに動けよな。なにかあやしく隠し立てしながらやろうとしていることはわかってるんだ。しっかり見張ってるからな』と脅しをかけられている。」

「すなわち、あの彼ら二人もまたさらに、秘密連絡会を裏切って行動しているわけです。別の目的を抱いていて、連絡会の狙いからずれたことをやろうとしており、連絡会も薄々それは気づいているという状況です。だから、二重の裏切り構造になっている。」

「ふむー?」

「もうひとつ、あの話の主人公も、何度も何度も、あのロボットに乗る、乗らない、乗りたくない、って話をするじゃないですか。乗ったりやめたりする。」

「するね。」

「このみっつからしてさ、どうもあれは人類が滅ばない気がするんですよね。主役ロボットが負けても、人類は滅ばないのではないか。」

「失敗したら人類が滅ぶよ、という話なんだったら、秘密の連絡会をつくるのもおかしいし、連絡会と狐狸の化かし合いをするのもおかしいし、乗ろうか乗るまいか悩むのもおかしい。負けたら全員死んじゃうよ、というならば、裏も表も駆け引きもやるやらないもなしにただ全力を尽くすしかないという話になるはずです。」

「ふーむ?」

「だからたぶん、あれは実は人類は滅ばないんですよ。人類が滅亡する、それを防ぐ、っていうのは公的な建前の目的であって、幹部たちはそれで集めた莫大な予算で、実際はなんか別なことへの支出をしようとしている」

「ほほう」

「続けて。あ、待って、飲み物汲んで来る。何かいる?」

「下の自販機ね? コーラゼロ」

爽健美茶お願いします」





「ありがとうございます。えーと、では、主役ロボットが負けても人類は滅ばないよ、となると、どうなるか。ブラック企業的世界観でエヴァンゲリオンを見立てる、というのは、以前からされている話なんですけれど、これは一理ある、三理はないかもしれないが二理はある、と思うんですよ」

「うん? どういう話」

「たとえばですね、わが国の誇るべき文化であるアニメの立派な誇るべき新たな作品を作ろうではないか、とか、あるいはわが国の経済活動の欠くべからざる重要な基幹である銀行の業務システムの重要な改善を行おうではないか、とか、言ってみましょう」

「あー? 言ってみようか」

「この業界はどんどんルーチンワークのコピー作品に堕落していっている、われわれがここでこの新規的挑戦的革新的な作品を成功させなければ、業界は滅びてしまう、とか言うわけですよ。あるいは、この業務システムが何月何日までに実装・稼働できなければ金融経済システムが崩壊して日本は滅ぶ、とか言うわけですよ」

「ww」

「んんー?」

「ところがですね、そういう企画が通ってがっつり資金が集められてプロジェクトがスタートしますのですけれどね、どうも組織の中になにやら非公式の連絡会ができているらしくて、その連絡会のメンバーが目指しているのは最初聞いた目標と違うみたいなんですよ。なんか気がついたら『人類は俗世の輪廻から解脱するべきなのだ』とかいって彼らの独自の宗教的な思想をプロジェクトに込めようとしていたりする。あるいは、何月何日までに絶対実装するって言ったけど実際をいえば水ものだしうまく間に合えば大変素晴らしいことだけれど間に合わなかったらそれはそれでやっぱりリスケジュールして新しい追加予算を組んでもらってやるしかないよね、だって欠くべからざる重要な基幹だから絶対放棄できないですものね、『万一』そういう展開になっても各所のそろばんが合うようにするのがわれわれ連絡会の仕事ですよね、とか立ち回っていたりする」

「www」

「それで、その連絡会の支配手段は主にスケジュールと予算なわけですが、それを彼らは彼らの指示とセットで部局のトップに与えてくるわけです。そうするとですね、この戦闘担当の部局のトップは、こいつはこいつでまた海千山千のオールド・タフ・狸で、プロジェクトの公式目標にも、連絡会の秘密指示にも、どちらにも心服なんかしていないわけですよ。彼は彼で自分独自の目標があり、上位二層に対してせいぜい従っているっぽいある程度の立ち回りを見せつつ、ある程度は心の奥底のレベルでは彼らを裏切って動いている。」

「なるほど」

「では戦闘部局のトップと参謀役とは、どんな目標を抱いているのか? 彼らはコンビなのでわかりやすい。それがですね、思うに、『うる星やつら』のラムちゃんなんですよ」

「えー?」

「すなわちこの場合、彼らがかつて共有したキャラクターへのけっこう観念的な思い入れ、その共有した思い出によって彼らは互いを信頼している」

「よくわからないぞ」

「あのおじさんコンビはですね、『かつて三十年前に自分たちが感動したラムちゃんの可愛さ美しさを、今度のプロジェクトで、現在のわれわれの技術で、最高最強に再現してやる!!』って考えているんですよ。彼らはそれぞれ中学生でうる星やつらを見てラムちゃんにぞっこんやられて、高校はノートにラムちゃんを描きまくって過ごし、大学のアニメ研究会で互いに出会って意気投合して上映会を開き同人誌を描き、そして業界に就職したんですよ」

「それで今回、部局のトップになって、きれいごとの公式目標をなんとか満たし、秘密連絡会とは資金とスケジュールと気に食わない指示について狐と狸の応酬をし、阿鼻叫喚する現場の作業員をおどしすかしして指揮統制して、あれこれの激務激戦を行う。そのとき上下左右からのあらゆる様々な強烈な圧力の中で、相方とコンビで戦っていて、絶対にこいつは裏切らない、こいつは最後まで戦ってくれる、と信じられるものは何か。彼らのそれが、ラムちゃんなわけですよ。」

「こいつは金や権力や恩義や友情を時によっては裏切るかもしれない。個人としての俺を裏切ることもありうるだろう。だが、ラムちゃんの可愛さ美しさを裏切ることだけはありえない。」

「四十がらみのオールド・タフ・狸なおじさん二人が、互いに背中を預けて一体となって戦えるものがある場合、たとえばそういうものだという話なわけ。」

「いいよいいよ」

「ですからですね、あのエヴァンゲリオンでおじさん二人が、ロボットの中に若死した奥さんの魂が入ってるからどうこう、っていうのは、いってみれば、公的予算を使っていかにラムちゃんを美しく素晴らしく元気で可憐に可愛く歌い踊らせてやろうか、ということなんですよ。そういうふうに、秘密連絡会も部局のトップも、それぞれプロジェクトをいかに私するか、ごく限られた自分たち固有の目標に持ち込もうかとしているケースなわけです。」

「あの奥さんってのは、君の見立てでは、生きた人間じゃないってことだな」

「そうです。あれはそういう実在せず、共有されたキャラクターだという解釈です。ちょっと、強引ですが」

「ふーむ。そろそろつけ麺食べに行こうぜ」

「行こうか」

「アイアイ」





「さてそうした風に考えてくるとですね、現場の主人公から見たとき、部局トップも、秘密連絡会も、公式目標を抛棄して好き勝手しているわけです。彼らの本意は主人公からは隠されているし理解もしにくいし、もし本意を知り理解したとしてもぜんぜん心服随順しかねるものである。そして主人公が負けても、人類は別に滅びない。たぶんスケジュールが延長されて、同僚がまた何人か倒れて、人員が追加投入されるだけだ。展開によっては現場部局が総ざらえでクビになって別のチームと入れ替えられるかもしれないが、それも本質的には部局トップと連絡会との間の抗争であって、主人公の行動や努力が参与している事柄とはいいがたい。」

「こうやってですね、主人公がロボットに乗る意味が、実のとこを言って、ないよ、ないよ、ないよ、っていう説話になっている。」

「ふんふんふん」

「だから最初は、憧れてる部局トップにお茶でも飲もうぜって言われてワクワクして顔を出したら、早速だがここのプログラム三日だけでいいから書いてよ、とか言われて、そんな業務、無茶だろうと断ったら、よれよれでうなされてる女子インターンが蹴り起こされて『おい、こいつできないってよ。やっぱりお前が書くしかないな』とか田舎芝居を見せられてげっそり幻滅するんだけどインターンがちょっとかわいいもんで三日だけやりますよって言う。三日徹夜してぜんぜん理解できてない危険きわまりないダメコードをやっぱり駄目だーって泣きながら提出するんだけどこれがなぜか動く。」

「なぜ動くかというと部局トップのレベルでは提出すれば動くっていう話がついている。たぶん存在しないことになってるコードが実は内部のどっかに既に入っていて、ダメコードが動作時にコケると自動的にそっちが起動してそいつが処理を片付けるフローになってる。表向きはその真のコードは存在しないことになっているので、チームに予算が下りてきている。」

「そういうわけで主人公やインターンや増援のPGが必死で書いたコードなんて実はどうでもいい。彼らのレイヤーでは悲喜こもごもあるのだが、部局トップから見れば、すでに話がついていることを納品のたびに確認しているだけにすぎない。」

「それで主人公は毎回、現場レイヤーからしてはとてつもなく無茶な仕様とスケジュールに見える案件をアサインされて震え上がるんだが、直上のプロジェクトマネージャは公式目標の理屈にのっかって『現場が全力を尽くして間に合う確率が1%あるなら全力を尽くすしかない』とか言いやがるもんで、世界爆発しろって呪いながら同僚と徹夜してひどいコードをでっちあげてぶったおれて、目が覚めると病院にいる。インターンが隣に座ってて『納品、済んだわよ』って言う。なぜあのコードが動いたんだか意味がわからなくてポカーン(゚д゚ )。そしてPMは今回もチームをがんばらせて成功したぜとドヤ顔。この野郎まるでわかってねえ。」

「wwww」

「PMってミサトさんか」

「ミサトほんとひどいですよあれあの女。毎回、部下を倒れるようなとこに追い込んどいて、オゴリが屋台のラーメンでしょ。ラーメンって。800円かよ。どういうことだと。それを黙々とすするインターン。笑うとこでしょここ。」

「wwwww」

ミサトさんやっぱダメか」

「あのPM、裏をとらないんだもん。毎回、突撃だーって言うばっかりでさ。だから日本中の電力を集めるんだ、NASDAからは盾を借りてこい、とかいうような、あらゆるものをかき集めて現場に投入する最適化は得意なんですよ。総力戦だ、全部叩っ込め、ってね。上からそういうお墨付きをもらうとめっちゃ活き活きしはじめて『やるしかないわ!』とか言って、その下にいる現場作業者の士気はどよーんと暗く沈んで次々すり潰れていくっていう。あれは畳の上では死ねない。後半、やっと裏をとろうとし始めるんだけど。」

「本当の事情を探ろうとしはじめるのね」

「そうそう。本当のスケジュール、真の利害関係を探り出そうとしはじめる。これやったほうがほんといい、殺されない程度にね。最初そういうところ気づかないんだけどさ。まったく申し訳ないです。そういうふうに裏をとってないと人間、ああいった酷薄な所業をするんだよね。やっぱミサトはシンジさんに苦言されるといいと思うね。それで目が覚めたりするんで。ちょっとそこに正座してくださいと。あなたの認識は小学生並みですよと。それで1時間くらいみっちり苦言してもらうと、俺はいままで節穴だった、ちゃんと動かないとだめだ、って気づいて精々まともな動きになるからさ」

「うーむ?」





「それさ、新米にダメコード書かせておけばシナリオは必ず先に進むって分かってるのに、なんでゼーレはゲンドウに部局トップをやらせ続けてるんだろうね。さっさとクビにして再アサインすれば良かったのに。」

「いや、ロボットで戦って勝つ、っていうのはあの部局の表の任務なんだけれど、それは部局トップと秘密連絡会にとっては些事だから。表向きの建前として、そのための部局です、なんて格好良く見得きってみせてるけど、それで予算持ってきて、実際につぎ込む本命の仕事は別にある。彼らのやりたいこと、やってることはそっちのほうなわけ。だから初回だけ、よその組織の人間の前で自分で現場を仕切ってみせてるけど、そのあとはPMに投げっぱでしょ。」

「部局トップが連絡会から任されている真の仕事はロボットの戦いとは別にあって、そっちのほうは事前に話がついていたりしないまともな…まともというのも変かな、なんか専門知識と状況把握が必要な任務なわけです。」

「それにディレクターって、現状を一番把握しているから、いかにデスマっていて、その人がけっこうその原因であったりするとしても、外したらもっと現状が把握できなくなって悪化するんですよね」

「あー まーそうか」

「作業の状況を一番把握しているっていうのは代替しがたい。」

「現場を知ってる奴と、役員で構成された連絡会では微妙なパワーバランスが起きるわけだ」

「そう。立場上偉いからといって、発注元のプロデューサーがじゃあ何をできるかっていうと、けっきょく主要な操作手段としては予算とスケジュールを足したり引いたりするしかない」

「なるほど。5号機使えよとかカオルの世話しろとか言って来るわけね」

「そうそう。人員出すよ、機材出すよとかw」

「後からすげ替えようといっても、なにがどう進行していてどう依存関係があるかとか、それを把握させるだけでとびぬけて優秀な『落下傘降下型ディレクター』が必要で、そういう人材がいないことは多い」

「もうひとつ発注元の手段としては、現場のナンバーツーかスリーかを昇格させてすげ替えることなんだけどさ。これ、それぞれ連絡会が呼び出して、崩れろやオラー、ってパワーハラスメントをかけるわけなんですが、ナンバーツーはそういうわけでモチベーションの基盤ががっつりラムちゃん一途なんで崩れない。ナンバースリーも情欲の女性なので職場に帰ってヒステリーは起こすけど崩れない。」

「ナンバースリーって赤木リツコのことか」

「そう、23話でしたっけ? どっか偉い人たちに呼び出されて帰ってきたと思ったら、現場の人員にあたりちらしたすえ、インターンを皆殺しにするテクニカルディレクター。超コワイ。」

「ああだこうだ言われることもあるけど、やはりこの部局トップ、手強い人間で、自分を蹴り出すことができないように人員配置を堅固に構築してますよね。」

「あと、どうせああいう宗教的狂気の目標みたいなものをゼーレは持っているわけで、そのノリにたとえふりだけでも付き合える、付き合うモチベーションのある変態ディレクターなんて、」

「あいつら2人ぐらいしかいないんですよww」

「ああ、それは納得できるなw」

「なんかあのサウンドオンリーの幹部たちがオカルトなジャーゴンを言った時に、」

「『はい、わかっております、すべては死海文書のとおりに』」

「とか答えてくれるやつ他にいないwww」

「確かに、それで『はいはいこっちは黙って超可愛いラムちゃん作ってますけどね!』と心の中で叫んでるw」

「超狸w」

「www」

「フームすると、」

エヴァンゲリオンは、庵野監督的には部局トップで超かっこいいウルトラマンを再現するぜーっていう立場のはずだから、」

「シンジくんをいじめるのは、現場の作業スタッフに『君ら、俺のウルトラマン萌えにひきずりまわされてるわけだが、それでいいのか?!』」

「という説教強盗みたいなものなのだろうか」

「説教されていたのはスタッフだったwww」

「それだ!?」

「そういうふうなことだったのかなー」

「むむむう」





「やっぱそういった一種、業務というか、真実を描いているような気がするんですよね」

「仮に、そうだとして、どうしてそういうのをやろうと思うんだろう。なにか怒りのようなもの?」

「いや、わかんないですけど、真面目にやるというか、体験にしか頼れないというか、」

「たとえばこういう跳躍をしようとしたらこう踏み出してこう振りかぶって、といったような、動きの再現性をいかに求めるか、いかにクオリティを高めるかということをずっとやろうというわけです。そしてまた背景美術の美しさ、メカ設定の格好良さ、ダイアログの力強さ、そういうものをどれもこれも高水準で気合入れて作ろうぜ、となったとき、していくときに、」

「でもまあ組織とかの関係性は架空のものにしようぜ、とはできないというか。一種ひっぱられてというか。全部真面目にやるしかなくなる、自分たちの体験してきた組織、業務、関係を使わざるをえなくなる、みたいなことがあるんじゃないかなあ。わかりませんけども」

「ふーむ」

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