指輪世界の第五日記。基本的に全部ネタバレです。 Twitter 個人サイト

時間がないからこれでゴー!/神経網さんと歩む現実世界での推論

Tskkの日記

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 迷宮旅行社さんの話は面白い。

 ふつう、「戦争を避けられる」という定理を目標として、帰納的に定理から定理へ遡っていき、「国際的な連合がある」というような偽の公理まで達して、よし、では国連を作ればうまくいくかもしれない、作ろう、と考える。あんまし、うまくいっていないけれど、でもかなり助かってますよ、ルーズベルトさん。そんなふうに、現実世界の事実を公理として、できるだけ多くの事実を無矛盾に含みつつ、あらまほしい定理をたくさん演繹できる、そんな体系を日々練るのが、社会学者の仕事だ。あらまほしい定理というのは殺人事件が少ないとか、エンゲル係数が低いとか。ほげほげ法案が通過して成立し、公理となれば、こんな定理が実現しますよ、さあ、賛成/反対せねば。云々。もっと大仕事になると労働者階級が政権を握るという公理を立てたりもした。

 で、そこを逆転させて、理念を公理としてそこから演繹をする、という見方なわけだ。

 数学では公理のほうがなんか偉いみたいに扱われている。現実世界では、理念が数千年も掲げられっぱなしな一方、事実はごろごろ変転してたりするので、理念のほうを上座に置いてそっちを公理にしたくなる気持ちもわからぬではない。演繹も帰納も似たようなもんだし方向が逆でもそんなに不都合はない? ありそう。

 それにつけても現実世界の事実どもは、簡単に急速に変わるくせに、簡単に急速には変えられない。世の中の流れなんか嫌いだ。僕らはみんないつかこれに殺されてしまうに違いない。早くこいつを飼い慣らす技を見つけ出すか、それか、殺される前に殺してしまわなくては。



 さて、数学屋さんは「無限?数え上げられるね。文句あるか!」なノリなので、いかなる瑕もない理屈で体系を組み上げていくのですが、そんな計算方法で短い時間中に演算が済む問題は、単純なものに限られます。もっとも、単純でも、頑丈な道具でめきめき建築してってるので高くなってますが。そしてそうやって先走っておくと、あとから、その理屈は素粒子物理のこの現象に使えるよ、とか見つかったりするのです。自然は真面目で瑕がないので、真面目で瑕がないものを先につくっておけば、それが対応する自然現象と出会うことがある。愉快です。

 しかし通常、われわれがそういうノリでものを考えると、フレーム問題に陥って計算時間が極大にかかります。ですからわれわれは、ニューラルネットで「なんかこれまでの経験から総合・類推して、穴がないような気がする。ゴー!」な理屈で体系を組むのがふつうです。そしてここがたいがいの体系のボロいところです。つまり定理から帰納・演繹する際の経路、推論の部分が、「時間がないからこれでゴー!」でありなかなか信用がならない。なにしろ、ニューラルなので、問い詰めても本人もよくわかってないし……文章でも、シリアルに論理を追って書いているようにみせかけて、キーワードをちりばめて、なんとなくこれでわかってくれよ、連想ゲームでいいや、神経網さんよろしく、ってやっちゃう時ありますよね。読むときもそう読んだりする。

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