指輪世界の第五日記。基本的に全部ネタバレです。 Twitter 個人サイト

俺禁止シリーズその14

 俺禁止単語追加。その単語は、うちの文章さんに使わせるには抵抗のある言葉なので、ここでは自慰と書く。それでは―とかわらない、とか、監督の―的な作品、などと使われる言葉だ。

 この言葉は、元来育ちのよいうちの文章さんが嫌がるものだが、禁止する主な理由は別にある。

 まずそれはこの言葉が、煎じ詰めると、制作者の努力の評価をおこなうものであるということだ(製作者の努力の評価/の禁止)。つまりこの言葉は、制作者が自分の好みからどれだけ視聴者の平均値にまで歩み寄れたかを評価するものである。評価というものは、語り出しの枕ならまだしも、文章の本筋を担える題目ではない。

 次に、制作者の好みというのは、その論者が非常に恣意的に推測したものである。視聴者の平均値はそれにくらべれば少し客観性が高いが、やはりかなりが推測になる。だから拠って立つところがない。

 そのようにあやふやなので、自慰的、という形容は、およそどんな作品にでもあてはまる。なんにでもあてはまる形容には意味がない。言い換えると、良いそれを作家性と呼び、悪いそれを自慰的と呼んでいるにすぎず、他の区別がない。だからつまりこの単語は、なにか気に食わないが具体的にどこがどう悪いのか理屈を組み立てられない、というときに、あるいは、けなし言葉で三四行ほど場所を埋めたい、というときに、一時凌ぎの行稼ぎに使われているものなのだ。これはあさはかな偽物だ。その論者の真の不満は別のどこかにあるのだから。

 文章屋がしなければならないのは、自分が気に食わないその不満を文章さんとともに探し当てて掘り起こして、具体的な形にしていくことだ。

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