指輪世界の第五日記。基本的に全部ネタバレです。 Twitter 個人サイト

文章さんvs書評

 書評ほど難しいものはない。と、うちの文章さんと理屈くん姉弟は言う。

 この姉弟がリスペクトしている本はどんな本かというと、たいがい、一つの理屈について、その根から幹を立て、枝を生やし、十全に繁らせ伸ばしきっている本である。言い換えると彼らの好きな本は、一つの理屈を伸長して、その端々まで、考え書きつくしてある本である。そのような本には、それ以上、理屈で言い足すことがない。三年とか四年とかかけて、偉大な先生方が考え調べてから書き、さらに推敲を重ねた理屈なのだから、ちょいと出のわれわれが言い足すことなど、そうそうあろうはずがない。

 この姉弟が書評を書かないのはそういう理由による。



 別の言い方で言うと、書評というのは映画評などとは違って、文章で文章を語るものである。すると、文章の、他メディアに対する情報量の少なさという特長が生かせない。文章さんの常道、十八番であるところの、情報密度落差が使えない。その本が読む価値のある本であるならば、文章で誉め言葉を並べてみても、現物を読んだ方が早い。現物を見た方が早いような文章は、文章さんに言わせると、ノイズである。文章さんはノイズになることを日夜恐怖している。

 ノイズでないとしたら、その書評とは、たくさん書評を書き並べることでその評価基準が信用できるという証をたてた人物の書いた書評であろう。それは、文章さんに言わせれば、人物が価値を得たのであって、文章がではない。文章さんは人物に価値を得させるために居るつもりはない。おまけとして、ついででそうなるのは全然構わないが。恐ろしい女である。この世界は恐怖に満ちている。

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