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空間と運動の説明/ジオブリーダーズ

 最近、伊藤明弘先生がすごい気がしてきました。具体的には『ジオブリーダーズ』です。

 エンターテインメントにおいて、なんであれ、ものごとが説明されて、それを理解するのは、楽しいことです。そのなかで、空間の説明というのがあります。

 空間内で物がどのように配置され、あるいは運動するか。その位置関係を説明し、理解させる。ジオブリーダーズでは、高速道路上での逃走と追跡、複数の車輌を文字通りまたいでの格闘戦・銃撃戦などの、一般的なアクションから、雪原斜面上に落下したゴンドラが滑り出し、その中で走りながら戦う数人と、そのゴンドラに追われて走る一人、それと並走して援護しようとするスノーモービル、などといった、アクションの舞台自体を運動させるきわめて手が込み念の入った描写までが、常に行われています。

 この空間説明力はただごとじゃねえ。

 誰がどこに立ってどこを撃ったか、銃撃を受けた方がそれにどう対応してどっちへ走るか、遮蔽物はどれか、撃った奴は何に反応して撃ったのか、そいつの隣にいるのは誰か、等々、説明は山のようにあり、その状況は馬鹿みたいに工夫されており、それらを見ていくのはとても楽しい。



 ところで映画は、本来、『ラ・シオタ駅への到着』など、空間内での物体の運動を描写するところからはじまりました。アニメーションもまた、物体の運動を描くところにその名は由来します。

 が、実際には、映画やアニメは、他の物事(物語や心情)を説明するために絵画的な表現、一枚絵のレイアウトに大きく頼り(押井守『METHODS』『イノセンス創作ノート』富野由悠季『映像の原則』)、物体の運動は、そのレイアウトを結実させるために逆算して設定される傾向があります。画面構成に都合のいいように物体が運動させられる。運動がレイアウトに隷属する。そういうケースがしばしばあるように思えます。

 その面では、長台詞や漫符・小ゴマなどの副次的説明手段が豊富な漫画のほうが、それらに物語や心情の説明を担わせて、画面構成は運動のために奉仕させることができるのかもしれません。漫画は、ページをめくる時間を読者に委ねるメディアであり、これによって、副次的説明手段に多くを担わせることが可能です。映画やアニメは物語とか心情とかを、視聴者が掴み損ねることのないよう、念入りに説明しなきゃいけませんから、主要な表現チャンネル/メインの伝達バンドがそれらに占有されてしまう。

 こうして、静止画であるはずの漫画が空間と運動の説明を得意とし、動画であるはずの映画やアニメがそれをオミットしがちという構図ができたりできなかったり。

 ちなみに動画で空間/運動の説明を主題とするのは、アクション映画、チャンバラやカンフーやカーチェイスなどかもしれませんが、むしろ、スポーツの放映です。それも広い空間を使い、展開の因果関係が複雑で、プレイが細かく区切られるアメリカンフットボールなどが、この理屈に合います。ですからアイシールド21がアニメ化されるなら、そこらへんの説明が楽しいことになるでしょうし、カメラが俯瞰のときに、アメフトの中継放送で解説者たちがやっているように、線や矢印をかぶせたりしてやってもいいでしょう。

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