指輪世界の第五日記。基本的に全部ネタバレです。 Twitter 個人サイト

何でも爆弾にすることができる能力だ

「じゃあ爆弾ゲームの話でもしますか」

「何だい、それは」

「円陣になって、隣に爆弾を渡していくゲームです。初期状態でみんな1000万円ぐらい持っているとして、まず、僕が1000円で爆弾を左隣にいる先輩に売ります。次に、先輩は2000円で爆弾を左隣にいる人に売ります。僕と先輩の収入はいくらですか」

「君が1000円、僕も1000円だね」

「先輩から爆弾を買った人も、その左隣の人に買値の1000円増しで売り、1000円得をします。さらに次の人も……というふうにぐるぐる回していくゲームです。これをぐるぐる回していくかぎり、1000円ずつ得をするわけですが、ある日爆弾がボカーンと爆発しまして、そこで爆弾回しは終わり、最後に爆弾を買っていた人は、それが売買されてきた回数ぶんそれに蓄積された値段のダメージを受けます。たとえば20人で100周回していたとすると200万円ですね。200万円出して買って、200万1000円で隣の人に売りたいが、売れない、というわけです。残りの19人が得る利益は、その人の受けるダメージを頭割りしたものです。」

「なるほど。爆弾ね。」

「このゲームは、その爆弾が、なにか、値段が上がるものだ、というものであればできます。建物を建てる土地、成長する企業の株、金融工学でどうのこうのしてリスクを解消しメリットを残した証券、などですね。何か、人々がやる気を出すもの、集まり買う気になるもの、投資する気になるものならできる。そういうものはけっこうある。」

「何でもいいというわけじゃないだろう」

「何でもいいとまではいきませんが、世の中に少ないものでもないです。一度爆発を起こして誰かをぶっ潰したら、しばらくの間、静かになるわけですが、投資するモチベーションのほうがあふれんばかりにみなぎっているのであれば、何かしら次のものが見つけだされる。やる気のある人が何かを少し高く買って、また別のやる気のある人がそれをさらに少し高く買えば始まるゲームですから。」

「生産分野に投資先がなくなってきて、それでなおも投資先を探せ、という強い圧力がかかったら、そういうことが始まるわけかな」

「金貸しの人たちの業務評定は基本的に貸出寄りでしょうからね。そういう圧力があるのでしょう。それでいつか職場が爆発したからって、それまでに受け取っておいたボーナスを返せと言われるわけではないですし。」

「実態が頭割りならみんなで集まってジャンケンでもすればいいものを。」

「まあ、そうも言えるんですが、このゲームは開始の最初期が投資行動と見分けがつかないんですよね。そこがポイントです。何かを少し高く買っているだけですから。そしてぐるぐる回りだしてきたら、今度はその回っているということが根拠になって参加を正当化できる。つきつめて見ればジャンケンかもわかりませんが、銀行家が参加するためには一定限のエクスキューズがあることが大事でしょう。」

「それで、十分実体経済に食い込んでおけば、自分が爆弾を引き当てても、共倒れだぞうというわけで、余所から助けてもらえるわけか。」

「だからいかに実体経済にからみついておくか、『人質にとっておく』か、みたいなゲームも同時にプレイしてるんじゃないかな。やりごたえのあるゲームでしょうね」

「あそこらへんではそういうことをやってるのかね」

「いや……ものすごく雑に言って、二割ぐらいじゃないでしょうかね、こういうゲームの部分は。よくわからないですけど。それで残りの部分はそのなんというか、ちゃんと、産業に対する投資資本の配分という仕事をしているということだと思います」

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