指輪世界の第五日記。基本的に全部ネタバレです。 Twitter 個人サイト

ブラザーフッドと兵卒視点の嫌映画コンボ

 ブラザーフッドと書いて太極旗を翻して見てきた。

 EBMの右山さんの戦争映画理論(『ブラックホーク・ダウン』と緊急展開部隊 プライベート・ライアン)にしたがえば、ブラザーフッドはきわめて愉快な戦争映画になると予測されました。つまり非戦勝国の作る大掛かりな戦争映画。端的に言えば、韓国映画人への資本投与によって、かれらのトラウマを全世界にぶちまけられる日が来たはずでした。

 すなわち、序盤戦で北朝鮮軍の準備が完了しているのに対して、韓国側が貧弱な装備しか持たず、「対戦車兵器不足で嫌ぁあ〜」「砲撃されて嫌ぁあ〜」「補給切れて嫌ぁあ〜」「血と泥と臓物の歩兵戦闘で嫌ぁあ〜」な様相を呈するであろうこと。

 またその後も、釜山前面での北朝鮮軍万歳攻勢、途中端折って次が中国軍の大反攻、38度戦での陣地奪取戦と、幾箇所もブラッディなイベントを持つこと。

 互いに現地徴兵しまくってるので職業軍人分不足で素人系の嫌ぁあ〜な戦場模様が繰り広げられるであろうこと。

 同じ民族同士なのでとっても嫌ぁあ〜な展開をみせうること。

 さてスクリーンではというと……予想を上回る出来映えです。お見事。



 どこまでも歩兵視点ですよ。人物紹介後の釜山前面の描写がやたら血泥分多量なので、おいおいまだまだイベントが待ってるのに最初からこれでどうなるよと思うと、そのノリのまま仁川以後の反撃掃討戦、ソウル奪回/ピョンヤン攻略、中国軍反攻、38度戦をやりやがります。丁寧にやりつくしやがります。白将軍とか児島襄とかで読んでた展開が追えて楽しくなります。

 釜山防衛線での「両脇の大隊が押し散らされたため敵中孤立して補給切れ」

 平壌急襲と北朝鮮軍高級将校の大量捕獲

 白頭山/中朝国境/南北統一の夢、そして中国軍参戦による大敗北と撤退

 戦線膠着期の「豊富な支援攻撃→歩兵で地上から突撃→失敗して攻勢衝力衰滅→反撃を食らって大損害で退却」の繰り返し

 ひとときもダレません、憩いません、息抜きません。その濃厚さは、ダレなければいいのか、という疑問を胸中に到来せしめます。戦場に訪れる奇跡のような平和の空白とかありません。同じく戦場でふと訪れる不可解な相互理解、アパムが撃たれない「今日はこれまでにしよう」系の矛納めもありません。幼女出たよとか義姉来たとか思った時がむしろ熱い展開をみせます。

 カメラを四六時中揺らしやがるせいもありますが、血と泥と砲撃と白兵突撃戦闘で無茶苦茶疲れます。将軍クラスが全く出て来ません。萌えマッカーサー登場に少し期待してたのですが台詞で一回名が出ただけです。組織としての軍隊の機能性の描写をしないので予定調和トーン*ytがかもしだされません。

 コンバット!やセイビングプライベートライアン等にみられる、分隊レベルでの戦闘能力の洗練されたキャラ分けがないので、戦闘描写でのゲーム的楽しみがありません。

 さらに銃後での内ゲバから終盤、ちょっとファンタジーな嫌展開が発動、とみせかけて、「砲撃は嫌ぁあ〜」「航空支援は嫌ぁあ〜」な場面構築に成功*ba。巧妙な嫌演出が冴え渡るうえに、くそ重い嫌史実との映画的不快コンボで視聴者をボコる気に満ちていて地獄絵図です。

 OCSのKorea: the forgotten war(ウォーゲームのシリーズの一作で去年出たやつ。参考画像)を買って来て、その戦意高揚のためにと思っていたのですが――韓国人、当然ではありますが、業が深すぎます。

 装備/補給が場面を追うごとに、火炎瓶→雨合羽→良好な糧食→火炎放射器→シャーマン→航空支援 と良くなっていくさまが愉快です。一方マキシム型機銃PM1910やザクマシンガンな円盤弾倉のデグチャレフも活躍しており、特に遭遇戦でPPSh41が優位をみせるのがもえます。あとラストを1953年で収めるのも、2001年からはじめたイントロからずれていますが、爺さんの主人公よりも義妹たちと学校に行く青年の主人公のほうがすがすがしく「やっと帰ってきた」感あふれ、むしろいい絵面になっています。

 総評……先日id:ityou:20040603で触れたトラウマ戦争分が大量に含有されています。子供にトラウマを与える良い機会ですので、まだの人はぜひ見せるとよいでしょう。子供にトラウマを与える必要を感じない人は自分が見ると趣き深いでしょう。





[yt] 予定調和トーン

 合理的に能率よく動いている組織や社会を描写すると、その内部での個人レベルでの問題、ドラマ、悩み、矛盾が、一段大きな規模で吸収され、あるべきように動く世の中の一部として予定調和しているような絵面になる。



[ba] ファンタジーとみせかけて砲撃/航空支援嫌〜

 弟が死んだと誤解して寝返って即英雄かよ、かつ脱走して敵陣に兄に会いに行くたあ幻想的な脚本ですな、ここでオチに向けてファンタジー度を上げるんですな、などと思っていると……自陣からの濃厚な砲兵の支援攻撃描写、そして米軍による強力な空対地支援攻撃描写を、共産軍陣地の視点から描きはじめて大喜び。地上攻撃機様がいらっしゃれば敵は一掃だぜわははなデウスエクスムスタング筋書きの向きが逆になり、カメラに撃ってくる絵面に。単にファンタジーに展開させるのではなく、意志のみえる演出が見事です。

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