指輪世界の第五日記。基本的に全部ネタバレです。 Twitter 個人サイト

猫ギャルゲー三人目ノーマルエンド

 ここしばらく「猫に触るギャルゲー」をやっていたわけだが、これは、浜松キャンパスの生協食堂脇にいる野良猫に餌をやる遊びだ。

 基本的な問題は餌の保管場所である。猫を見てから研究室にキャットフードを取りに戻るのは時間削られすぎだし、といって普段から持ち歩くのは重い。平均遭遇率2回/週ぐらいだし。そこで、最初は、シス工棟入り口の傘立ての中、次にエントランスエアロック部分の上に置いておき、必要に応じて取り出していたのだが、いずれも掃除の人の目に触れたようである朝なくなっていた。洗面所のボード裏なども試して、生協の自販機コーナー(屋根付)の自販機筐体上に置いたのが今、長続きしている(第一日記2003年4月22日)。

 猫を視認するつど、自販機コーナーの脇から裏に入って取り出すわけだが、ここは食堂のもろ入口にあるので人通りも多く、よく見れば表からフリスキーの箱がはっきり見える。にもかかわらず半年持っているのは一種の謎である。考えるに、自販機スペースは生協の衆らにとって自分たちの「なわばり」ではなく、補充とメンテナンスに来るメーカー管轄の空間と感じられているため、掃除や点検の係の人の目がとどかず、かつ、メーカーの人も気付いても微妙に遠慮というか弱気になってしまって捨てにくいのだろう。学生にしても、その存在を気付いたって、誰に話すほどの関わりもなし。そういう中間地帯に暇人の利用しやすい隙があるというのは、一般にいえることかもしれない。



 さて、2002年度を最後にしっぽミケを見なくなってからこっち、常駐するようになったのは茶色と雉であるが、前者は比較的早く人馴れし、弁当やらなにやら学生にせびっていた。こいつを撫でるのは比較的楽で、猫視認→キャットフード持って来る→接近しつつ舌打ち→植木の陰に撒いて食わせる の繰り返しによりパブロフ式に舌打ちに反応するようにもなり、眼の腫れも引き毛並みの埃もとれて触り心地が良くなった。まあ、まだまだ低難度の二人目といったところである。

 しかし三人目の雉はかなり難しい。初遭遇時はキャットフードを撒いても、2m距離まで後退しなくては食べに来なかった。遭遇率自体低く、夏ごろから見なくなって死んだかと思ったが秋口に子連れで戻ってきた。ここで警戒距離は3m程度まで増え、子供4匹は4m級。遭遇率がさらに落ち、学生への寄生もうまくいかない様子で、夜中に生協の生ゴミ置き場を荒らしていた。たまに見かけてもさっぱり体格を増さず、小さいままで、冬を越すか疑問だった。

 しかし、人の少なくなった12月から数回、子供連中と連続して遭遇する機会があり、ここでかなりの警戒心を削ることに成功した。

 基本的に猫連中はそれぞれ特定の警戒距離を持ち、見知らぬ人間に対しては「びっくりしたような目(猫的には恐怖と警戒の表情)」をしながら、近づかれたら近づかれたぶんだけ下がり、間合を保つ。そして3回ぐらい踏み込まれたら退却する。猫は退路のない場所には行かないので退路は必ずある。

 下がる猫は、たとえば1.5mで下がったなら、その遭遇ではその1.5mをそれ以上削ることはできない(ただしキャンパス外で餌を用いたことがないのでその場合は不明)。触れる猫は、目線をあわせず低い姿勢で動作を遅く、少しずつ区切って近づき、指の匂いを嗅がせてからさらにゆっくり動けば、触ることができる。経験によるとこの違いは戦術的には覆すことができない。

 触れない猫に対して、餌を撒いてから後退して警戒距離まで下がった場合も、そのままでは連中はこちらの様子をうかがうだけのことが多い。

 ここで連中が複数いると、事態が楽になる。間合いをとって片方が餌を食べに来るまで下がり、視線を外して楽な姿勢で地蔵のように動かないことで安全性をアピール。するともう一方もびくびくしながら食べに来る。これは、連れが安全保証をしていることと、放っておくと自分の分がなくなってしまうことの二つによるのだろう。1匹の子供と遭遇したときはこっちが去るまで待たれて失敗に終わることがあるが、2匹以上のケースでは1匹が来るので、少なくともそいつの警戒距離を削ることはできる。運がいいと弱気な小さい奴が寄ろうとして寄れず、警戒距離の縁で振幅を繰り返す様子が見れる。また、肩(というか頭)を寄せ合って餌を食べていても、こまめにこちらを見やって、ふと不安になって数歩逃げてみたり、また餌まで寄ってから駆け戻ったりするさまは可哀いものである。

 子供連中だけに遭遇するよりも、茶色+子供の組み合わせに会うほうが望ましい。茶色はきわめて油断してニャーニャー寄ってくるし撫でられるので、こちらの安全性を強くアピールすることができる。これは二度ほどあった。おそらく雉+子供の状態で、雉に餌まで来させることに成功すれば、そもそも人間に対する自分の警戒心を子供に教え込んだのが母親である雉(このように人間を警戒する性質は野良猫の母系で相続されていく)なのだから、非常に効率がいいと思われるが、そのためにはまず雉の信頼度を上げなくてはならず、それ以前に子離れしたのか雉+子供の組み合わせを見なくなった。

 現在、子供の警戒距離は、油断してる奴が30cm。一番小さいいまだに片手乗りサイズのが50cm。正月休みでキャンパスに人がいなくなった時期、僕以外の餌供給源が減ったために、かなり稼げたと思われる。

 そして今月に入って、茶色+雉の組み合わせ数回で、茶色をダシに一気に雉の警戒心を削ることに成功。ついに先週撫でた。これで浜松シナリオ三人目クリアといえよう。



 餌食い中の野良は、初期には、しきりに警戒して顔を上げ、こちらを確認してくる。この段階では、怪しまれる動作を極力おさえ、目も合わさず、石か電柱のように害のない存在であることを主張するのがよいと思われる。動くときはゆっくりと、猫に予測のつく動きをする。

 パブロフ過程を進めて、物理的に手を伸ばせば触れそうな30cm圏内まで近寄せたとしても、手を出す時期を急ぐと、せっかく上げた信頼度が落ちる危険がある。過程に正のフィードバックがかかるのは、猫が警戒距離を削減して一歩近くに踏み込んでくること(踏み込んで安全だった→警戒距離削減 のループ)であって、接触はその最終段階である。接触自体に正のフィードバックはなく、むしろ序中盤に手を伸ばすと非常にびびられるので我慢したほうがよい。

 安全評価が上がってくると、猫の警戒の対象が徐々にこちらから離れ、遠くの車のエンジン音とか、風で動いた枯葉などに向けられるようになる。触れるのはさらにその先、警戒のまなざしがこちらに振られることがなくなった段階だと思われる。

 また、飼猫は飼主に対して、子猫が母猫の乳房を揉むように肉球プッシュ+爪攻撃をかけてきたり、子猫が母猫に甘える時のようなゴロゴロ音を出してきたりするので、おそらく飼主に接する際に対母猫のスクリプトを用いているのだと考えられる。同様に、野良猫についても、連中がこちらを母猫みたいなもんだとみなし、そのようなスクリプトを使ってくるようになることを目指すのが、効率的な指針ではないかと思われる。これは逆もいえる。

 植木の根元の陽だまりに2匹、目を閉じてとぐろを巻いている猫というのは、幸福を写真に撮って額縁に入れたような眺めである。実際には連中は熟睡しているわけではなく、浅い眠りですらないのかもしれない。しかし一度あんなふうな骨格になって延びたり丸まったりして寝てみたいものである。

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