指輪世界の第五日記。基本的に全部ネタバレです。 Twitter 個人サイト

歩き読むアシモフ/はてなダイアリーの一冊百選

 アイザック・アシモフ『空想自然科学入門』 ISBN:4150500215

 人間の幸福のひとつに、面白い本を読み終わって、それが長いシリーズの一篇だったときというのがある。つまり掘り当てた瞬間だ。アシモフの科学エッセイは全15冊ある。そしてアシモフは非常な多作家であり、SF、ノンフィクション、ミステリを含むその著作は最終的に467冊に達する。最初の出会い、小中学時代の拠点である区立図書館の古びて清潔な板張りの文庫部屋に収められていたのはそのごく一部だが、当時感じた幸福感は深かった。時間は無限にあり、消費すべき本の数さえあれば永遠に読んでいける。ただ入力し、学習すべき時代の幸福。出力に用いる時間とのトレードオフなどなく、入力素材を横並びにして目についた順に棚から抜いていけばよい選抜の喜び。だから毎回貸し出し上限の10冊を抱え上げてカウンターに置くのが当然だ。そして理科学が最も強力な技術であり、SF作家が最も無茶を考えている大人であった。だから僕にとって彼のこの科学エッセイシリーズがムスカの古文書(ぼくらのヒーロー・ムスカ)だったのだ。

 学ランの左ポケットに入れて読んだ、満員電車の背広の隙間で読んだ、10分の休み時間で読んだ、昼休み図書室の書庫で弁当食べながら読んだ、歩道を歩きながら読んだ。東京は文庫を読みながら歩いて移動するのに適した街だ。人が多くある程度混み合っている繁華街は歩き読みの味方だ。安定した流速の中に居て、車や自転車や風から守られる。改札を出たら、自信を持って歩いている、ポケットティッシュに出会っても見向きもしないタイプの一人者を選んで後ろにつき、適宜乗り換えながら進む。アシモフ先生の背中は広く、彼はずんずん歩いた。



 id:tragedy:20040306から振っていただいたはてなダイアリーの一冊百選の一文です。次はid:AYS:20040310 静岡大学ゲーム研究会発起人であり、僕がはてなダイアリーを使うきっかけになった綾茂勝太郎さんです。

spcateg文章[文章]